吐き気乗り越え「やっと任務遂行できた」パリ五輪。一日16時間の練習経て近代五種・佐藤大宗が磨いた万能性
一日の練習時間は16時間。任務は「メダルを取ること」
――普段の練習や、大会前の調整はどのようなスケジュールで取り組んでいたのですか? 佐藤:一番ハードだった時は、朝の5時から10キロ走って、夜の9時ぐらいまでの間に3、4種目をトレーニングするスケジュールで、それを週3回ぐらいのペースでやっていました。大会前は、本番でベストパフォーマンスを出すためにランニングと水泳の距離を減らしながら、スピードを上げていきました。練習量は減るんですが、質が上がるので、特にランニングはきつかったですね。 大会前の3カ月間は、馬術は落馬をするとケガしてしまうので、それを回避するために馬術の練習だけは少なめにして、他の4種目を鍛えていました。その間に、水泳とランニングを強化する合宿を10日間ぐらいやったのですが、その時は1日で約30キロぐらいを走る感じでした。さすがにしんどかったですね(苦笑)。 ――頭の切り替えも含めて、過酷なトレーニングですね……。自衛隊体育学校での活動は、競技とどのように両立されているのですか? 佐藤:普段、自衛隊の仕事をしているわけではないんです。「自衛官アスリート」として活動していて、任務が「オリンピックでメダルを獲得すること」です。そのことは知らない人が多いと思うのですが、自衛隊体育学校って、結構面白いんですよ。 ――ユニークな存在ですね! では、パリでは任務をしっかり遂行されたということですね。 佐藤:はい、やっと遂行できました。ホッとしています。
「自分を変えたい」メンタルトレーニングが転機に
――競技を始めた頃はメンタルが弱かったそうですが、どのようにして克服してきたのですか? 佐藤:私の場合、うまくいかないとすぐイライラしてしまうところがあったんです。負けず嫌いな性格もあるのですが、たとえばフェンシングで負けると、悔しくてケンカ腰にフェンシングをやったり、最低なメンタリティだったんです(苦笑)。それを、負けても前向きに捉えられるようにメンタルトレーニングで変えました。自分がイラッとして態度に出てしまいそうな時は、その瞬間に4、5秒黙って、我慢するんです。そうすると、私の場合はその衝動が3割ぐらいまで下がるんです。それができるようになってからは、「なぜ自分がイライラしたのか」とか、「なぜ勝てなかったのか」を冷静に考えられるようになりました。その結果、イライラすること自体が減って、負けや失敗を恐れなくなり、チャレンジ精神が出てくるようになったんです。それまではただ「勝ちたい」という気持ちしかなかったので、チャレンジ精神もなく、根性論で「とりあえずやれば勝てる」と、適当にやっていたこともありましたから。 ――大きな変化ですね。メンタルトレーニングをしようと思われた転機はどんなことだったのですか? 佐藤:競技を始めて5年目ぐらいの時に両脚のアキレス腱をケガして練習もまともにできなかった時に、コーチがメンタルトレーナーの方に「佐藤大宗のメンタルを強化してもらえますか?」と頼んでくれて。もともと、「メンタルは自分で鍛えれられる」と甘く考えていたので、最初は「ちょっと胡散臭いな」と思っていたんですけど、「やるからには全力でやろう」と。自分を変えようと思ったので、そこがいい転機でしたね。実際にやってみて、こんなに変わるのかと自分でも驚きました。 ――過去には全日本選手権大会優勝(2021年、23年)、世界選手権9位(24年)、アジア競技大会6位(22年)などの結果を残していますが、競技の中で、転機になった年や大会はいつだったのですか? 佐藤:自分自身に自信がついたという意味で、転機の年になったのは2023年だと思います。ワールドカップ第4戦で銀メダルを獲得したんですが、その時は本調子じゃなかったんですよ。ワールドカップは第1戦から第4戦目まであって、連戦の中で最後の4戦目は筋力と体重が落ちて、風邪もひいていました。その中で銀メダルを取ったので、これが「万全だったらオリンピック行けるんじゃないか」という自信につながった大会でした。