現役自衛官セクハラ訴訟 公益通報後に「二次被害」「昇任までに12年」“不利益取り扱い”か
「匿名を希望したにもかかわらず相手に伝わった」
元陸上自衛隊員、五ノ井里奈さん(元1等陸士)が北海道内の演習場で受けた性被害を訴えたことを機に、防衛省は2022年9月から特別防衛監察を行い、翌年8月にその結果を公表した。 これに対し、「自衛官の人権弁護団」は、内部で行う監察では隊員の意見を十分にくみ取ることはできないとして、2023年11~12月に「本当の声」と題した独自アンケートを行った(隊員・家族等計143人から回答)。 また、今年3~4月には、特別防衛監察に被害を申し立てた隊員23人を対象に、「特別防衛監察110番」アンケートを実施。さらに今月上旬、そのうちの連絡先がわかる11人に対し再度アンケートを行い、その回答を報告した。回答内容は深刻かつ切実だ。 空自隊員(退職)は「各種監察を受けたが、事前隠ぺいが常態化している」、陸自隊員(現職)は「匿名で(監察を)希望したにもかかわらず、相手に相談内容が伝わってしまい、名誉毀損で訴えるとのことで、相手方が雇った弁護士から内容証明が自宅に届いた」と答えた。また、陸自隊員(現職)の一人は、Aさんと同様に「昇任が留め置かれている」という。 海自隊員(現職)は「陸海空幕僚監部が調査するのは間違いで、やはり第三者機関が調査しなければならない。深刻な事案ほど隠したがる」と、監察自体が“形式的”だったとも記した。
自衛隊員「ハラスメント改善にご尽力をお願いします」
弁護団は第9回期日に先立つ12月18日、中谷元防衛大臣に宛てて、「自衛隊のハラスメント根絶にかかる要請」を提出した。 全8項目の要請の最後では、部隊の規律維持のための「自覚に基づく積極的な服従の習性を育成する」(「服務ハンドブック」幹部隊員用、服務参考資料)の文言がハラスメントの精神的温床になっていると指摘。 弁護団の佐藤博文弁護士は「ハラスメントは職務の適正な範囲を超えたものであると(省は)回答しているが、職務に対する正しい認識をどう形成していくのか」とも問うた。 安全保障環境が厳しさを増す中、どのようにして国を守るのか。防衛省・自衛隊の最大の“戦力”は「人」であるべきで、その「人」が大切にされる組織であってほしい。 弁護団のアンケートで陸自隊員(現職)の一人は、メディア、国民に向け「自衛隊のハラスメントの改善にどうぞご尽力をよろしくお願いいたします」とも訴えた。防衛省・自衛隊は、「本当の声」をどう聞くのだろうか。 ■榎園哲哉 1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。
榎園哲哉