どちらが勝っても日本に「逆風」か...トランプvsハリス、日本経済にとって「まだマシ」なのは?
変わりゆくアメリカを要説得
似たような動きは労働組合の分野でも顕著となっている。これまで組合活動とは無縁だった日本メーカー内で組合結成の動きが顕著となっているのだ。 日本をはじめとする国外メーカーのアメリカ現地法人の多くは、労働組合が組織されていない。アメリカの組合は企業別ではなく産業別となっており、日本とは比較にならない交渉力を持つ。 とりわけ全米自動車労働組合(UAW)の政治力はすさまじく、アメリカの大手自動車メーカー(いわゆるビッグ3)は、UAWの意向を受け、大規模な賃上げを余儀なくされている。 日本メーカーの収益力が高かった理由の1つは、組合がなく賃金を相対的に低く抑えることができていたからである。 ところがUAWは、組合非加盟の国外メーカー労働者に対して組合参画を促す活動を行っており、既に組合が結成された国外メーカーも出てきている。UAWが活動を活発化させる背景となっているのが、先ほどから何度も指摘しているアメリカ第一主義である。 UAWは長年、民主党の支持母体となってきた組織であり、バイデン政権は実は日本メーカーにおける組合結成を強く後押ししている。当然のことながらハリス氏もその政策を引き継ぐ可能性が高く、日本の産業界にとっては大きな逆風となるだろう。 組合活動を後押しする動きは、これまで労働者とは親和性の低かった共和党でも観察される。 アメリカ最大規模の労働組合「チームスターズ(全米トラック運転手組合)」のショーン・オブライエン会長は、24年7月に行われた共和党全国大会に出席。候補者指名を受けたトランプ氏に対して最大限の賛辞を送った。 同組合はトラック運転手を中心に130万人もの組合員を抱えており、選挙戦への影響は絶大だ。最終的に同組合は特定候補者を支持しない方針を表明したが、共和・民主どちらが政権を獲得しても、組合がアメリカの利益を最優先するよう政治に求めていく方向性は変わらない。 ちなみに連邦政府は、備品の調達や政府が財政支援するプロジェクトにおいてアメリカ製品の購入を優先する制度(バイ・アメリカン政策)の運用を強化しているが、この政策を強力に推進したのはバイデン政権である。 近年、活発化しているアメリカ第一主義は、民主・共和、あるいはリベラル・保守を問わない大きな流れと解釈すべきだろう。 今まで日本の産業界は、外資に対して寛容でオープンだったアメリカ市場を最大限活用することで業績を伸ばしてきた。だがアメリカ社会は、日本と同様、外国企業に対して強いアレルギー反応を示すようになっている。 もし日本の産業界が引き続きアメリカ市場で利益を上げようとするならば、日本政府はアメリカ政府に対して「日本企業が活動することはアメリカ国民にとって大きなメリットになる」と説得しなければならない。 日本にとっては「借り」となってしまうため、アメリカ側は、日本企業を受け入れる代わりに米軍駐留費の負担増などと組み合わせた、いわゆるパッケージ・ディールとして交渉してくる可能性もある。 トランプ氏、ハリス氏のどちらが大統領になっても、変わりゆくアメリカを説得するのは容易ではない。
加谷珪一(経済評論家)