どちらが勝っても日本に「逆風」か...トランプvsハリス、日本経済にとって「まだマシ」なのは?
米社会の内向き傾向が加速
日本製鉄は23年12月、アメリカの伝統ある製鉄会社USスチールを買収すると発表した。当初はよくある日本企業による米企業の買収劇と見なされており、買収はスムーズに進むかと思われた。 だが突如、政治的な横やりが入ったことで状況が変わっている。トランプ氏が突然、USスチールの買収反対を表明したことに加え、現職のバイデン氏までもが反対の意思表示をするなど、政界が総出で買収を阻止する形になってしまったのだ。ハリス氏もバイデン氏の方針を引き継いでおり状況は変わっていない。 大統領選を前に、共和・民主両党のリーダーが外国企業(日本企業)による企業買収に反対を表明する図式だが、日本にとって不都合な話題であるせいか、「単なる選挙アピール」「日本企業が買収したほうがアメリカにとってもメリットがある」など、国内では問題を矮小化しようという議論ばかりが目につく。 だが現実はそのように生易しいものではないと考えたほうがよいだろう。 今回の反対表明が選挙を前にした政治的アピールであることは明らかであり、企業や投資家の理屈と政界の理屈にズレが生じることも特段珍しいことではない。だが、今回の一件はアメリカ社会の大きな潮流の変化を背景としており、この案件単体の問題にとどまるものではない。 これまでアメリカ社会は、日本やドイツ、中国など外国企業がアメリカ企業を買収したり、アメリカ市場で活動することについて寛容であり、多くの日本企業がアメリカ市場をフル活用して業績を拡大してきた。 だが前述のようにアメリカ社会は急速に内向きになっており、外国企業が自国に入ってくることに対して党派を問わず嫌悪感を感じる人が増えてきている。 ちなみに日本社会は以前から外国企業による国内企業の買収に対して否定的だったが、とうとうアメリカ人も日本人と同じ考えを持つようになったと解釈することもできる。これは戦後アメリカ社会の大きな変化であり、この流れは今後、強くなることがあっても弱くなることはないと予想される。 仮に今回の買収が成功しても、これからの時代は、いつでも簡単にアメリカ市場に進出したり、企業を買収したりすることはできなくなると考えたほうがよい。 新大統領がトランプ氏であれハリス氏であれ、「アメリカ市場は常に外国に開放されている」という従来の常識はそろそろ捨て去る必要がありそうだ。