ユダヤ文化を知る――正統派のラビが日本大使を「茶の湯」でもてなした話
お茶菓子はイスラエルの国民的スナック菓子で
そうして月日が経ち、冒頭の場面に戻る。開始定刻になると、まず水嶋大使が入場し着席した。次に通訳のイスラエル人女性とラビが入場した。ラビから大使に対して本日の茶会に参加してもらったことへのお礼があり、おもむろにラビがコインを箱に入れ始めた。続いてラビに促された一同は、募金箱に小銭を入れていく。日本の茶会では絶対に見られない光景だが、日本のしきたりとユダヤ教のしきたりで外せない個所を残した結果だ。 次にお茶菓子が運ばれてきた。干菓子には、ひなあられに似たイスラエルのスナック菓子『バンバ』(イスラエルの子どもたちは皆バンバを食べて育つのだという)。そして主菓子は、現地の方が作られたカップケーキ。言わずもがな、どちらもコーシャ認証を受けた素材でできており、ユダヤ教徒も食べることができる。なお、気になるお味だが、バンバは素朴なイチゴ味、カップケーキは中東原産のデーツ(ナツメヤシ)入りで、どちらも抹茶にぴったりだという。 いよいよラビが抹茶に手を伸ばした。ユダヤ教では何かを始めるときに水で手を清める習慣がある。慣れた手付きで抹茶を器に移しお湯を加え、茶筅を前後に動かし始めた。不思議な静寂が場を支配する。水嶋大使もその見慣れない光景に思わず見入っている様子だった。日本式の茶の湯にユダヤ教のお祈りが加わる、まさにラビ茶の真骨頂ともいえるシーンだ。 茶道具にもこだわりがある。抹茶を入れる器(なつめ)には、本来ユダヤ教徒が安息日にワインを飲む銀色のコップを使用した。お香が入っているのはユダヤ教の蠟燭立て。元々の用途も意味も全く異なる道具が、茶会の雰囲気に独特な安定感をもたらしているのは、やはり、ユダヤ人たちの生活に根差した道具だからだろう。 最後に参加者にお土産が配られた。スパイスのチョウジ(クローブ)の小袋だ。ユダヤ教では、安息日の最後に、チョウジの匂いを嗅ぐ風習がある。今回の茶会の主人であるラビ、モルデカイ・グルマハ氏も「とても素敵な経験になった。今後とも茶会は定期的に続けていきたい。京都に馴染みのある方々などをお招きしたい」と意気込みを語った。