八海山はニューヨークへ進出...世界で「日本酒」の人気が急上昇している理由
世界中で巻き起こっている日本食ブームに続き、日本酒の人気も急上昇しています。有名な「八海山」も海外へ進出するなど、その勢いは増しています。なぜここまで人気が高まっているのでしょうか? 酒蔵コーディネーターの髙橋理人さんによる書籍『酒ビジネス』より解説します。 【書影】年間2000種類の日本酒を呑む著者が教える「お酒の教養」 ※本稿は、髙橋理人著『酒ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。
なぜ八海山はどこでも美味しく飲めるのか
「越乃寒梅」「久保田」「雪中梅」。これらはすべて新潟県の日本酒であり、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。 同じく「八海山」も知名度が高い新潟のお酒で、日本酒を嗜んだことのある人は、まず口にしたことがあるかと思います。居酒屋のほか、スーパーやコンビニでも手にすることができます。 その身近さから老舗にも感じられる八海山ですが、意外にも他の酒蔵と比較すると若手に分類されます。日本酒業界では創業200年、300年という蔵も少なくない中で、八海山を醸造する八海醸造は創業100年を迎えたばかりのベンチャー企業と言えます。 そして、後発のベンチャーであるがゆえに、八海醸造は日本酒で培った「米・麹・発酵」というコア技術を活かし、日本酒以外の多岐にわたる事業にも積極的に参入をしています。 アルコール分野は、焼酎や梅酒、地ビールの醸造、グループ会社による北海道のニセコでのジンとウイスキーの製造のように、日本酒以外にもアルコール事業を行っています。ノンアルコール分野では、甘酒やオリジナル化粧品ブランドなどの展開を行っています。 さらに、東京都の麻布・日本橋に直営店「千年こうじや」を構え、魚沼の食文化を発信するとともに、地元の南魚沼市には日本酒を製造する酒蔵を中心として、7万坪の敷地に「魚沼の里」というリゾート地を思わせる複合施設の展開を行っています。 海外においては、アメリカ・ニューヨーク州で初のクラフトSAKEメーカー「BrooklynKura」とパートナーシップを締結しました。これほど多方面の分野でダイナミックな展開を行っている酒蔵は他に例がありません。 これほど多角的な経営を行い、ブランドの認知が高まっているにもかかわらず、八海山は決して遠い存在ではなく、私たちはいつでも美味しく飲むことができます。 その理由は、八海醸造がレギュラー酒を「日常消費財」と考え、「よい酒を、より多くの人に」という理念を実現すべく、企業努力をしていることが挙げられます。八海醸造は1922年に創業しました。南魚沼の地主だった初代蔵元の南雲浩一氏が地域活性化を目的に、村に病院や製糸工場、発電所を作り、酒蔵もその1つでした。 「何もないところに産業を興して地域を活性化させよう」という想いから始まったので、ニーズがあったわけでもない販路開拓は大変な苦戦をします。 そんな中、群馬や神奈川の市場に活路を見出し、八海山の評価が高まっていきます。平成元年頃には、製造が追いつかなくなるとプレミア化が起こり、2000円のお酒が5000円で流通してしまいました。 この時、八海醸造としては高く利益を取るチャンスとは捉えませんでした。2000円で売るお酒を5000円で売られてしまったら、同じ品質でも割高感を与えてしまう。つまり、品質が下がることと同じだと考えたのです。 「商品が需要に対して少ないのは、メーカーとして供給責任を果たせていないから」 このように真摯に状況を受け止め、八海醸造では供給量の確保に努めます。ここでの秘訣は、「製造体制をそのままにして製造量だけを増やすと、日本酒は必ず質が悪くなる」として、設備の拡充と刷新、原料確保など製造体制に先行して投資を行う点です。 こうして、「質」と「量」の相反する課題をクリアしたからこそ、私たちは今日も美味しく八海山が飲めるのです。