増えるベンチャーのM&A。「IPOする会社に投資したい」VCはぶっちゃけどう思っている?【キャピタリスト座談会】
いま、国内スタートアップのM&A(合併・買収)が増えている。STARTUP DBの調査によると、2024年上半期の国内スタートアップのM&A件数は前年同期比で36%増えた。 【全画像をみる】増えるベンチャーのM&A。「IPOする会社に投資したい」VCはぶっちゃけどう思っている?【キャピタリスト座談会】 VCから出資を受ける国内スタートアップは、基本的には株式上場(IPO)を目指すことが多い。従来はM&Aという「出口戦略」はIPOできなかった時の次善策と見られがちで、マイナスにとらえられるムードがあった。VCの利益の面でもIPOは魅力的で、上場を急かす圧力になるケースもあると言われる。 こうした変化について、キャピタリストはどう思っているのか。正直、M&Aは「負け」なのか?異なるVCに勤務する3人に聞いた。 【参加者プロフィール】 松本さん(仮名)…老舗系VCに勤務。IPOした投資先も多いベテラン。 玉井さん(仮名)…ステージを問わず投資する独立系VCに勤務。 小澤さん(仮名)…シード期のスタートアップを中心に投資するVCの代表を務める。
IPOへのこだわりが減った
── M&Aの増加について、変化を感じているかどうかについて教えてください。 玉井:M&Aに向かい合おうとする起業家が増えてきているという感覚はあります。IPOマーケットって一時期すごくバブルのように盛り上がったけれど、今は一旦落ち着いている。IPOができたとしても(時価総額が小規模の)スモールIPOにとどまる場合、M&Aで大手企業の傘下に入り事業を成長させる選択肢を考えようとする企業は、投資先でも増えてきたなと感じています。まさに昨日も1社とその話をしてきました。 小澤:資金が集まるようになった※から、出口を求める流れが強くなっているのは自然なことだと思います。売り先は事業会社だけでなく、最近はBtoBのSaaS企業ならPEファンド(未公開株式に投資するファンド)も買ってくれるようになりました。人事労務システムのjinjerなどがその一例です。 起業家側もかなりマインドチェンジしていて、IPOにあまりこだわっていない印象。むしろ投資家の方がIPOにこだわってきたのが日本のベンチャーマーケットだと思っています。「IPOを目指すと言わないと、やっぱり投資してくれないんですか」と聞かれたこともあります。 ※スピーダ スタートアップ情報リサーチの 調査によると、2023年の国内スタートアップの資金調達額は約8000億円に上る。2014年は約1400億円だった 松本:やっぱりM&Aは増えている。ファンドの数が増えたり、ファンドの運用満期(多くは約10年)が近づくにつれて、事業会社に投資先スタートアップを買ってもらうイグジット(EXIT)は件数ベースでも2倍くらいに増えている印象です。儲かるケースも、儲からないケースもあります。 この10年、20年で、売り手側の意識が変わってきていると感じます。そもそも、2000年代のVCはスタートアップというよりも中小企業への投資がメイン。経営者には「自分の会社」という意識が強く、(売却で)手放さない傾向にありました。 今のスタートアップには外資系や独立系のVCから資金が入り、イグジットを意識させるような投資契約を結んでいることは意識変化の一つの理由としてあるでしょう。また、シリアルアントレプレナー(連続起業家)という言葉が定着し「今回は売却してまた次のことをやればいい」という人が増えているとも感じます。 買い手側で言うと、オープンイノベーションの流れで大企業がスタートアップに注目している。KDDIや、M&Aを数多く手掛けているGENDAのような会社も出てきて、売り手・買い手ともに増えています。