肌を守るためがん手術を拒否する「全身刺青男」、和彫りの虎を背負う「アメリカ人女性」…「入れ墨は反社の証」という批判に愛好家が伝えたいこと
宮大工の祖父や父親の背中に彫られた刺青を見て育った熱海龍さん(64)は、10代から刺青を入れ始め、現在では耳まで刺青だらけて彫り師も認める「ほぼ日本一の全身刺青男」としてタトゥーイベント等で精力的な活動を展開している。【藤原良/作家・ノンフィクションライター】 【写真】「全身刺青男」熱海さんド迫力の顔面・褌写真と、アニーさんの真っ白な肌に彫られた「虎の刺青」セクシー画像 ***
幼少時代の熱海さんは、近所の子供たちのように一般的なおもちゃやテレビヒーローも大好きだったが、祖父の背中に彫られた刺青を見て子供心に「粋だな。カッコいいな」と感じたそうである。 10代になると、普段はヤンチャに振る舞っていても、ここぞという時になると怖じ気づいて躊躇ってしまう自分の心の弱さが悩みのタネとなり、それを克服したい一心で「騎龍観音」の刺青を背中に入れた。「雷をおこす龍の力で慈雨を降らせて人々に大地の恵みをもたらす」という大意が宿っている。 「大人になると『人は誰しも決して強くない』と悟れますけど、子供の頃って自分だけが弱いんじゃないかとか、他人のことがとても羨ましく見えたりするでしょ。そうやって自分が何者なのかを探していく中で、私は騎龍観音に辿り着いた感じでした」(熱海さん) 刺青愛好家は刺青=入れ墨について「縄文時代からの習慣という説もありますが、記録として残っているのは16世紀の頃、戦国時代からになります」と言う。 「古くから刺青には『誓い、信念や宗教的なもの、社会的身分の表れ、女性なら既婚者としての表示、刑罰、個人の趣向等』と様々な意味があります。そのために刺青の模様や文様の種類が増えていったのでしょう」
がん手術を断固拒否
この解説に沿って分類してみると、熱海さんの場合は「信念と個人の趣向」ということになるようだ。熱海さん自身も「毎回、入れる刺青の意味を考えながら彫り師さんと打ち合わせして彫ってもらってます。自分にとって刺青は『魂』と『愛』です」と言う。 熱海さんの刺青愛はその後も日に日に増大して「好きなことを極めたい」の一心で、刺青の範囲がどんどん広がっていった。 そんな折、新型コロナによる世界的なパンデミックの影響で熱海さん自身も世の中の先行きに大きな不安を感じるようになると「負けるものか!」と奮起して全身隈なく刺青を入れることを決意した。 そして、ふと気が付くと「ほぼ日本一の全身刺青男」になっていた。気合充分で生命力溢れる熱海さんだったが、60歳を過ぎた頃から体調に異変をきたして診察を受けると、肝臓がんに罹患していたことを知って愕然となった。「さすがに落ち込みました。もう死ぬのかなって」(熱海さん) しかし、ここで熱海さんは信念を貫く。心の叫びに従ったのだ。医者からも周囲の人々からも手術を勧められたが、熱海さんは「刺青にメスをいれるわけにはいかない!」と手術することを断固拒否したのだ。