肌を守るためがん手術を拒否する「全身刺青男」、和彫りの虎を背負う「アメリカ人女性」…「入れ墨は反社の証」という批判に愛好家が伝えたいこと
SNSでの誹謗中傷
熱海さんは“アンチ刺青”の人々がSNSに誹謗中傷を投稿することが残念だと言う。 「闇バイトで逮捕された容疑者がテレビニュースで放送され、その容疑者が刺青しているところが映し出されると、その日のうちに私のSNSアカウントに『刺青は反社の証』とか『刺青なんかろくなもんじゃない』なんてメッセージが投稿されるんですよ。見た目の共通点だけで私まで反社扱いですからね。だったら黒縁メガネをしてる人が逮捕されたら日本全国で黒縁メガネをしている人は全員犯罪者なんでしょうか? 逮捕された人と同じ髪型をしていたら全員逮捕されなきゃならないんでしょうか? 反社の人と同じタイプの車に乗ってたらみんな反社の人になるんでしょうか? これってどんな社会なんでしょうか? 情報だけをかき集めて頭でっかちになっていないで、もっと人間同士の対話をしたほうが絶対にいいよ」(熱海さん) まったくその通りだろう。ちなみにアニーさんは、母国語の英語の他に、日本語、韓国語、フランス語を流暢に話す。「色んな言葉が話せれば国や人種を飛び越えてたくさんの人たちと会話ができるので一生懸命、勉強しました」とのこと。アニーさんは熱海さんの紹介で、刺青愛好家たちが集う「刺青同心會」の会員との交流を通して、「人生ですばらしい時間を過ごせています」と言う。
人と人のコミュニケーション
「A.I.などの発達で今後も多数のコミュニケーションツールが開発され、世の中はもっと便利になり、便利であることが当たり前の社会で人間は感謝の気持ちを忘れてしまうかもしれません。実際、パソコンやスマホに『便利だな』という気持ちを持つ人も、自分のパソコンやスマホに感謝する人は少ないはずです。しかし結局のところ、最も重要なのは人と人のコミュニケーションであり、『人は人と接することで学び、人と触れ合うことで大切なものを覚えていることができる』のだと思います。人と人のコミュニケーションの重要性を再認識させてくれた刺青同心會の方々には本当に感謝の気持ちでいっぱいです」(アニーさん) 「ほぼ日本一の全身刺青男」の熱海さんや金髪刺青女性のアニーさんは、一見すると、近寄りがたい雰囲気もある。だが実際は“人の心”を大切にして、前向きで真摯に生きている。そんな彼らの原動力が刺青だというところに人間の奥深さを再認識させられた。 藤原良(ふじわら・りょう) 作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』(以上、太田出版)など。 デイリー新潮編集部
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