梅枝から時蔵へ! 六月歌舞伎座・襲名披露でさらなる高みへ!
[落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月紹介するのは、6月歌舞伎座で襲名披露を行っている中村時蔵さん。情感あふれるこまやかな芸で、歌舞伎ファンを魅了する実力派の花形俳優です。曾祖父・祖父・父と受け継がれてきた大きな名前を名乗ることで、さらなる頂へと羽ばたいていく時蔵さん。名前が変わるってどういうことなのか、時蔵になったら何か変わるのかなど、襲名にまつわるあれこれをバイラ歌舞伎部のまんぼう部長とばったり小僧が聞きました!! 【写真】梅枝としての最後の出演日、楽屋で撮影。部屋着の破壊力
中村時蔵●なかむら・ときぞう 1987年、東京都生まれ。父は五代目中村時蔵。屋号は萬屋。1991年6月歌舞伎座で初お目見得。1994年6月歌舞伎座〈四代目中村時蔵三十三回忌追善〉の『極付幡随長兵衛』の倅(せがれ)長松と『道行旅路の嫁入』の旅の若者で四代目中村梅枝を襲名し初舞台。2024年6月歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』杉酒屋娘お三輪で六代目中村時蔵を襲名。古典演目を中心に女方として活躍するほか、立役の二枚目でも実力の高さを見せる本格派。古参の歌舞伎ファンをもうならせる注目の花形俳優。
■新 時蔵の愛称は、ときちゃんorトッティ!?
まんぼう部長 6月はいよいよ襲名披露興行ですね。「梅枝」から「時蔵」にお名前が変わるということで、まずはおめでとうございます!! 時蔵 ありがとうございます。まだ実感がないんですよね。自分ではまだしばらくは梅枝のつもりだったので。 ばったり小僧 昨年、最初に襲名のことをお父さまから聞いたときは受け入れられなかったそうですね。 時蔵 そうなんですよ。僕たちの家では、「時蔵」が一番上の名前なので、父は最後まで時蔵なんだろうと思っていたんですね。もうすぐ70歳になりますし、「ここまで来たのだから死ぬまで時蔵でいてよ」という思いが強かったんです。父自身も「時蔵」という名前にもっと執着があると思っていたんですけれど、軽々と僕に名前を譲ることがちょっとショックで。 それに名前って器みたいなもので、色々な役をやって、長い年月を経て、その器の中に様々なものを蓄積して満たしていくようなところがあるんですけれど、ここで名前を変えると、また一からになってしまうので、それはなんだかもったいないと思うし。 しかも今度父が名乗る「萬壽」(まんじゅ)は新しい名前なので、器のかたちもまだ決まっていないわけです。 部長 なるほど。 時蔵 ただ、祖父が34歳という若さで亡くなって、父は本当に苦労したので、自分が元気なうちに時蔵という名前を僕に譲りたいと。歌舞伎の世界では、後ろ盾となる父親がいないということは大変なことで、それは僕もよくわかるので、周囲の方々とも相談して、時蔵を襲名することに決めました。 小僧 逆に「梅枝」という名前を譲りたくないのですか。 時蔵 譲りたくないですね(笑)。たぶん僕が歴代の中で、「梅枝」という名前をいちばん長く名乗っているんです。だからすごく愛着があるし、僕は仲間内で「ばいちゃん」と呼ばれていて、その呼び方、すごく気に入っていたんですよ。 確か最初は(尾上)松也さんが呼び始めたと思うんですけれど、もう「ばいちゃん」って呼ばれなくなっちゃうと思うと、なんだかとっても寂しいです。できることなら、一生梅枝でいきたかったです。