先生が心を揺さぶられた、 不登校の子どもたちによる「お互いへの思いやり」 新形態の公教育「メタバース学校」は、優しさであふれていた
10月4日午前10時、ある学校で朝のホームルームが始まった。先生役の指導主事がオンライン画面上で、笑顔で呼びかける。「おはようございまーす。寒暖の差があるので、体調管理に気をつけてね」 小中の不登校、最多29万9千人 22年度
すると、画面のチャット欄に児童生徒から「おはようございます!」などと、次々に書き込まれていく。子どもたちも顔や声を出せるが、顔出しする子は毎回、ほぼいない。コミュニケーションの手段はチャットがメインになる。さいたま市教育委員会が昨年4月に開設した不登校等児童生徒支援センター「Growth(グロウス)」。いわゆる、メタバース学校だ。 文部科学省の2022年度の調査で、不登校の小中学生数が30万人に迫っている。うち約4割は、専門家の相談や支援を受けておらず、社会から孤立しかねない状況に陥っている。そんな中、さいたま市はインターネットの仮想空間「メタバース」に学校を開設。学びの機会と、安心できる居場所につながることが期待されている。現場を取材すると、相手を思いやって成長していく子どもの姿や、不登校に対する先生の視線の変化が見えてきた。(共同通信=小島孝之) ▽子どもの顔が見えない学校 グロウスの利用者は、30日以上学校を休んでいる児童生徒。10月末時点で小1から中3の265人が登録している。前年の同じ時期より1・5倍増えた。グロウスに登校すれば、元々通っていた学校に出席した扱いになる。1日当たりの登校者数は現在、100人程度だ。
子どもたちは、メタバース上の教室で、自分の分身「アバター」を動かし、授業を受けたり、自習室で学習したりできる。授業は30~40分で1日3こまが週3回。参加は自由で、気乗りしなければ自習でもかまわない。 中学生が学び直しのために小学生の授業を受けることも、その逆も可能だ。友達や先生のアバターとビデオ通話やチャットができ、おしゃべり専用の部屋や悩みを先生に個別に相談できる部屋も用意されている。 ▽支援につながらない子どもをゼロに なぜ、メタバースの学校をつくったのか。さいたま市教育委員会の篠谷瞳さんは語る。「心に傷を負った子どもたちに安心できる居場所と学びの機会も与えたい」。子どもたちの状況はさまざまで、別室なら登校できる子もいれば、家から全く出られない子もいる。一人一人の背景に合わせた学びの在り方が必要という。直接顔を合わせないメタバースであれば、参加への心理的負担を軽減できる。