米国経済の「ゴルディロックス」は維持可能か? マクロ経済シナリオの変調に警戒するマルチ・アセット戦略
一般的な経済理論では金融政策によって資本コスト(資金調達コスト)が上昇すると経済成長率は低下し、経済主体(消費者、企業など)の借り入れと消費が減少する。その結果、物価は下がり、失業率は上昇し、この動きは家計所得の伸びの抑制(世帯収入の減少)につながり、これは、中央銀行が経済成長とインフレが十分に鈍化したと確信し、利下げに動くまで続く。この一般的なサイクルに反して現実の米国経済は、利上げ開始から約2年が経過し、その金利引き上げは迅速かつ積極的なものだったにもかかわらず、米国の実質GDP成長率はプラスを維持し、企業は労働者の確保のため賃上げを余儀なくされ、このため、インフレ率は押し上げられたことで実質家計所得は目減りしたものの、個人消費の落ち込みはみられていない。
個人消費の落ち込みが見られない要因の1つは、家計債務の大きな割合を占める住宅ローンにおいて、米国は長期固定金利が中心であるため(米国の住宅ローンの75%以上が10年以上の長期固定金利)、金利上昇による消費者の負債コスト上昇への直接的な波及効果が抑制されていることがあると解説。また、パンデミック後の貯蓄減少に対する消費者行動の構造的変化があったことも要因と考えられるとしている。そして、ほとんどのエコノミストが指摘するように「金融政策が実体経済に影響を与えるまでに2~8四半期(6~24カ月)のタイムラグがある」ため、現在がその影響が出て来る最後尾を迎えているという見方もでき、これから影響が現れる可能性もある。
ただ、米銀大手のバンク・オブ・アメリカが発表した最新のファンド・マネジャー調査によると、世界の投資家の23%が「ノーランディング(無着陸)」と予想し、「ハードランディング(硬着陸)」と予想しているのは11%に過ぎないということが明らかになっている。エコノミストの意見が一致しているのは、「FF金利がピークに達した」ということだけで、それぞれの2024年の想定シナリオは大きく異なっている。この予測範囲の広がりが市場のボラティリティを高め、投資機会を生み出すことにつながる。