アギーレJに見えた進歩
汗をたっぷりと吸収し、肌と接する部分が変色したブルーのユニフォームがピッチ上の悪条件を物語る。日が暮れても30度近い気温。キックオフの時点で70%だった湿度は、前半終了前には84%にまで上昇した。文字通りの消耗戦となった90分間で、日本代表がこれまでとは「異なる戦い方」を見せた。 ブリスベン・スタジアムでオーストラリア時間の午後7時にキックオフされた、イラク代表とのアジアカップ・グループリーグ第2戦。ともに初戦を白星で発進し、勝てば決勝トーナメント進出へ大きく近づく大一番は気象条件を考慮してか、イラクが自陣に引く時間帯が多くなった。 ブロックの外側ならば、日本はテンポよくボールを回せる。しかし、相手に脅威を与えなければ何の意味をなさないことは、退場者を出して10人となったギリシャ代表を最後まで崩せなかったワールドカップ・ブラジル大会のグループリーグで嫌というほど味わわされている。 迎えた前半22分。イラクが形成するブロックに風穴を開けたのは、国際Aマッチ通算150試合出場という前人未到の領域に到達した34歳のベテラン、MF遠藤保仁(ガンバ大阪)だった。 FW本田圭佑(ACミラン)からのパスをフリーの状態で受けた遠藤は、相手のマークを振り切り、左サイドからペナルティーエリアに侵入してきたFW乾貴士(フランクフルト)の動きを見逃さなかった。 キャプテンのMF長谷部誠(フランクフルト)をして「スイッチを入れた」と言わしめた縦パスが乾の足元にピタリと入った瞬間、ゴール前にはニアに本田、中央にMF香川真司(ドルトムント)、ファーにはFW岡崎慎司(マインツ)と3人が詰めていた。 タイミングを図りながらマーカーの股間を通した乾のグラウンダーのクロスは、本田のブラインドからフリーで抜け出してきた香川の右足と完璧にヒット。シュートは相手GKに阻まれたものの、こぼれ球を追った本田が相手2人に倒されてPKを獲得し、自らが左足で冷静に右隅へ沈めた。 結果的にはこの一発が決勝点となった。元日本代表MFで、現在は解説者を務める水沼貴史氏は「PKを獲得する前の崩しは非常によかった」と複数の選手が絡んだコンビネーションを高く評価した。 「まずは香川。シュートが相手キーパーに阻まれるなど、ゴールに関しては依然として産みの苦しみを味わっているけれども、このシーンを含めて、相手ゴール前でボールに触れる回数が非常に多くなった。プレーそのものから『オレが決める』という気概も感じられる。セレッソ大阪時代に一緒にプレーしていることもあり、乾とのコンビネーションも取りやすいのだろう。イラク戦の乾は意図的にボールを早くさばくなど、球離れの速さでリズムを作り出していた。今シーズンのブンデスリーガで好調をキープしているし、所属チームで得た自信をそのまま代表に持ち込んでいる」