アギーレJに見えた進歩
前半戦のシュート数は、日本の6本に対してイラクはわずか1本。ボールを回しながら隙を見つけては縦パスを入れ、あるいは左右からクロスを上げて平均年齢が20代前半と若いイラクを前後左右に揺さぶる。ある意味でゲームをコントロールしていたといっていい。 もっとも、後半開始直後に本田が放ったシュートがバーに弾かれると流れはイラクへと傾く。疲れの見えた31歳のエース、FWユニス・マフマードをあえてベンチに下げて若いジャスティン・ヒクマドを投入。前線に起点を多く設け、一気にパワーをかけてきた。 押し込まれる展開を強いられた日本だが、ピッチ上の選手たちは「そう長くは続かない」と読んでいたのだろう。耐える時間帯と割り切り、ときには体を張って決定的なチャンスを作らせない。 後半18分には、的確なタイミングでハビエル・アギーレ監督が動く。乾に代えてMF清武弘嗣(ハノーヴァー)、遠藤に代えてMF今野泰幸(ガンバ大阪)を投入。特にボール奪取能力に長けた今野の存在は、イラクの猛攻を食い止める上で大きな防波堤になった。 アギーレ監督は「4‐3‐3システム」のまま変えていないと試合後に語っている。しかし、パレスチナ戦に続いてアンカーを務めた長谷部は「相手が攻撃的MFを2枚にする形で来たので、ダブルボランチ気味にした時間帯もあった」と、選手たちの自己判断で臨機応変に対処したことを明かしている。 後半20分過ぎにはイラクも息切れしたのか。再びブロックを形成し、ボールを奪いにこなくなった。日本もリスクの大きい縦パスをほぼ封印して、ブロックの周囲でのボール回しに終始して時計の針を進めた。後半34分過ぎからは2分間ほど、淡々と横パスを回し続けた時間帯もあった。 結局、90分間を通してイラクが迎えた決定機はほとんどといっていいほどなかった。押すときは押し、引くときは引く。自分たちのやり方に固執するのではなく、相手に合わせて戦い方を変える「柔軟性」をアギーレジャパンは披露したことになる。前出の水沼氏が言う。 「ワールドカップでは引き出しの少なさもあって、悔しい思いをさせられた。その意味では少しはゲームをコントロールできたことを評価したいが、ブラジル大会を経験した選手たちが多いことを考えれば手放しで喜ぶことはできない。まずは余計なファウルが多い。特に不必要な形でボールを失い、追いかけて反則を犯す場面が目立った。相手のフリーキックの精度の低さに救われた部分があるが、決勝トーナメントに入ればそういった隙を相手は絶対に見逃さない。早い時間帯に追加点を奪えばイラクは戦意を失ったはずで、その意味では本田も反省する必要がある」