米紙がsacaiの阿部千登勢を「最強のファッションデザイナー」と絶賛
米紙「ワシントン・ポスト」が日本のブランド「sacai」の阿部千登勢について、「あなたの知らない最もパワフルなデザイナー」と題した記事を掲載。相反する要素の融合を追求する阿部の独特なスタイルに、世界のファッション業界関係者が魅了されているという。 【画像】米紙がsacaiの阿部千登勢を「最強のファッションデザイナー」と絶賛
不思議な調和のとれた世界を表現
日本発のブランド「sacai(サカイ)」の創業者でデザイナーの阿部千登勢は、多くの女性デザイナーと同じく、自身の作品を身にまとい、その手入れには独特のこだわりがある。 たとえば、阿部は他のブランドや企業、ポップカルチャー界のアイコンとのコラボTシャツをよく発表するが、それらはすべて手洗いする。素材は綿100%で、もちろん洗濯機で洗える。 だが、彼女がこだわるルーズでボーイッシュなフィット感を保つには手洗いするしかない。このフィット感でなければ、ジュエリー(ロレックスのメンズの腕時計や、阿部がカルティエと制作したマルチフィンガーリング)で飾られた腕や手の女性らしさと、ベルボトムやハイヒールのバランスがとれないという。 「ただのTシャツではありません」と阿部は話す。「カジュアルであっても、とても貴重なものです」 1999年にサカイを立ち上げ、東京を拠点に活動する阿部は過去25年間(ファッション界では称賛に値する長い年月だ)、高級とカジュアル、女性的と男性的、ジャケットとドレスといった相反する要素を一つの服に融合させてきた。この発想によって彼女はファッション界で最も影響力のある女性の一人となった。 いまやナイキとのコラボコレクションを愛するハイプビースト(最新の流行を追い求めるファッションリーダー的存在)から、ニューヨークの高級百貨店やセレクトショップでサカイの服を買い集める目利きたちにまで語りかける力がある。 阿部が得意とする「融合」の最高傑作は彼女自身なのかもしれない。ファッション業界では珍しく、サカイの経営者とクリエイティブのトップを兼任しており、この二足のわらじが彼女にとって不可欠な要素だ。 「生活の9割以上はサカイの創作に捧げています」と彼女は言う。「ビジネスサイドのチームは成長していて、ますます頼れるようになりました。クリエイティブの面では自分の仕事をただ愛しています。服作りやデザインが大好きなんです」 日本は過去50年間に世界で認められた革新的なファッションデザイナーの多くを輩出している。山本耀司は、テーラリング(服の仕立て)は一連のルールとして扱うことが可能であり、ジャズミュージシャンがメロディーを奏でるように、リフ(反復楽節)を入れて面白く、独創的で、いたずら心のあるものに作り変えられると証明した。 コム デ ギャルソンの川久保玲は、ファッションは抽象芸術と同じくらい知的探求心をとことん駆り立てられると世に知らしめた。渡辺淳弥は、ワークウェアのシンプルな形がいかに崇高なものへ昇華しうるかを示した。 では、阿部の持ち味は? 彼女の作る服は、混沌として矛盾に満ちた世界が行き着く理想の姿や可能性を表現している。それは、喜びと驚きにあふれ、不思議な調和のとれた世界だ。