米紙がsacaiの阿部千登勢を「最強のファッションデザイナー」と絶賛
複雑なのに着やすい服
昨今、多くのデザイナーは創造力に行き詰まりを感じ、パンツやカシミアセーターといったアイテムのつまらない完璧さにこだわるようになった。阿部を駆り立てているのは、絶えることのない創意と、彼女が何度も口にする「喜び」だ。 正面から見るとごく普通のワークウェアのTシャツも、後ろ身頃はガウンのように広がるひだの入ったテック素材になっているかもしれない。街が異常な寒さに包まれた瞬間に慌てた女性が2枚を重ね着したように見えるアウターは、実際には1枚で、丈の長いクラシックなトレンチコートに短丈のナイロン製ボンバージャケットがフランケンシュタインのようにつなぎ合わされている。 阿部が手がけるのは、世界的に認知されている服、主にTシャツやジャケット、メンズシャツ、トレンチコート、シャツワンピース、スウェットシャツ、ピーコートといったワークウェアやビジネスウェアの分類だ。ただ、一つの服を飾り立てたりエキゾチックに演出したりはせず、それらを融合させ、希少な折衷の一例を美として表現している。 奇妙なことに、そうした複雑な服が生活を楽にしてくれる。彼女の作品に身を包み、一日を過ごしてみるといい。 「見た瞬間は『どうなっているの?』と思うかもしれませんが、近くで見ると着やすい小ぶりのジャケットです」 サカイの商品を10年近く扱うニューヨークの人気セレクトショップ「ラ・ギャルソンヌ」のクリス・キムはそう語る。 「背面にひだがたくさんあったり、金具がいくつか飛び出したりしていて、どういうことか頭をひねるでしょう。でも実際に着てみると、まったくごてごてした感じにはなりません」
Rachel Tashjian