【団地のふたり】“子ども部屋おばさん”や“独身子なし”の「50代団地暮らし」に猛烈に惹かれてしまうワケーー小泉今日子と小林聡美が演じる主人公たちの“なんかいい暮らし”
■キョンキョンが見事に中年女性になっている ファンタジーとほんの少しだけの苦み。その塩梅にふさわしいのが小泉今日子と小林聡美である。ふたりはほどよく生活感がない。だがふたりとも決してチャラッともしていなくて、地に足はついて見える。 小林聡美は、映画『かもめ食堂』(2006年)のヒット以来、北欧的な丁寧な暮らしのロールモデルを演じる第一人者である。たたずまいがふわりとしていて生活感がなく、でもなさすぎもせず、親しみがある。世帯じみてないけれど生活力はありそうだ。
小林が演じるなっちゃんは、イラストレーターなので、ファッションもインテリアもセンスがよくて、目に楽しい。第一線からは退いているが、同業者でものすごく売れっ子になっている人がいても気にしないで個展を見に行くことができる。 ただ、乗り物酔いをするので、外に出るとき覚悟が必要。たくましさと繊細さのあわいをユーモアも交えながら演じている。だから、マイペースすぎてノエチを怒らせてしまうキャラでも憎めない。
そして小泉今日子。スーパーアイドル・キョンキョンがみごとに中年女性になっている。彼女が演じるノエチは一時、外に出て結婚もしていたとはいえ、実家に戻って、いまやある種の“子ども部屋おばさん”状態。 昔ながらの狭い部屋に本と洋服をぎっしり詰めて、その散らかり具合はややカオス的。研究職にありがちな部屋の雰囲気にも馴染んでいる黒縁メガネの小泉今日子がなんとも感慨深い。 だが、団地のお祭りで踊るときは(第6回)、さすがの体のキレを見せた。ここだけはリアリティーを捨て、“小泉今日子”に戻り、みんなの夢を守ってくれたのだ。
■永遠に「団地ファンタジー」が続いてくれたら 小泉今日子と小林聡美は団地で暮らすはぐれ者を演じながら、それに自分を重ねる画面の前のはぐれ者たちに夢を一さじ与えてくれているのである。 原作は、続編『また団地のふたり』が10月25日に発売される。このままいくらでもふたりの日々が積み重ねていけそうだ。この終わりのなさがよい。 どちらかが結婚(再婚)したり、なにかの拍子に売れっ子になってしまったりすることなく永遠に団地ファンタジーが続いてくれたら、この日本にもまだ希望があるような気がする。
木俣 冬 :コラムニスト