神奈川県愛川町の「移民によるペルー料理」が愛される深い事情 県内で最も「外国籍住民の割合」が高い自治体
■移民の町で、移民が腕を振るう移民の料理 本格的に料理を学んだ安彦さんは、「がっつり」なメシにも、実は繊細ともいうべき気配りも加えている。 たとえば主菜に添えられたライス。定食特有の豪快な見栄えではあるのだが、どことなく香ばしい。 実は米を炊く際、適量のニンニクと塩を加えているのだという。これがまた、濃厚な肉の味を引き立てるのだ。 さらには牛肉のパクチー煮込み(セコ・デ・レス)などの「がっつり」な一品から、野菜スープ、鶏肉のクリーム煮など、どれもがまさに「いいとこ取り」の味わい。つまり、ペルー料理の特徴ともいえる食文化の融合を感じ取ることができるのだ。また、同店の料理には「アヒ・ワカタイ」と呼ばれる唐辛子ソースがトッピングで用意されているので、“味変”の楽しさもある。
地元ペルー人の胃袋として知られる同店だが、近隣の米軍基地からはヒスパニック系の人々が、そして南米の味を好む日本人が各地から駆けつける。 店内にはアンデス文明をモチーフとした壁掛けや人形、絵画が並ぶ。目と舌で、私たちはペルーと出会う。沖縄から始まった内間さん一家の長い旅路を思う。 移民の町で、移民が腕を振るう移民の料理。口の中で多様性が広がる。 そう、多様性はおいしい。
安田 浩一 :ノンフィクションライター