なんと、絶滅した生物もいたかもしれない…じつは、この地球で生きるためには「時を刻むしくみ」が必要不可欠だったという衝撃の事実
概日時計説とはなにか
それから2000年を経た18世紀のフランスの天文学者、ド・メランが、オジギソウは暗闇の中に置かれていても昼の時間になると葉を開くことに気づきました。何日も観察を繰り返し、なんらかの時計のようなしくみがあるに違いないと想像しました。 マメ科の植物の葉の就眠運動が、体内時計によってもたらされていることを証明したのは、ドイツのエルヴィン・ビュニングでした。ビュニングは1936年、植物の中に時計のようなものが備わっていて、24時間周期の地球の自転と同期して時を刻んでいるという仮説を提唱しました。 この仮説を「概日時計説」といいます。
体内時計をもたない生物は絶滅した
当時の研究者たちは当初、「概日時計なんて神秘的で形而上学にすぎない」と批判し、ビュニングの考えを相手にしませんでしたが、概日時計説が科学として認識されるまでにさほどの時間は要しませんでした。 1950年代になって、ドイツのユルゲン・アショフやアメリカのコリン・ピッテンドリらが、体内時計は植物だけでなく、多くの動物や単細胞生物にも共通してみられることを明らかにしたからです。 現在では、体内時計は「昼夜交替する地球環境を予知し、これに適応し、種を保存するために欠かすことのできないしくみである」と考えられています。地球上に棲むすべての生物に備わっていることから、体内時計を獲得することに失敗した生物は絶滅し、地球上から消え去ったとまで考えられています。
ヒトの体内時計はどこにある?
ヒトの体に体内時計があることが発見されたのは、1972年のことです。 私たちの体内時計は、脳の「視床下部」とよばれるところに存在していました。視床下部は、健康を維持するために体のはたらきを調節している重要な脳の部位で、自律神経やホルモン(内分泌系)などを取り仕切っている神経細胞の集まりです。 その視床下部の中にある左右一対の、米粒のような細胞の塊が、ヒトの体内時計でした。 その発見から25年が経った1997年には、体内時計の細胞中に時を刻む遺伝子(「時計遺伝子」とよばれています)が存在しており、正確に時を刻んでいることが確認されました。 それに続く数年間の研究から、時計遺伝子が体のすみずみのほとんどの細胞に備わっていて、私たちの健康を維持し、病気から身を守るための“見張り番”の役割を務めていることが明らかにされました。 体内で時を刻むしくみが、健康や病気と関係しているなどとは当時、私たち研究者の誰もが思いもしていなかったことでした。 時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間
大塚 邦明(東京女子医科大学名誉教授/ミネソタ大学ハルバーグ時間医学研究センター特任研究員)