BOX最年長世界奪取記録に挑む36歳の久田哲也に長谷川穂積氏直伝秘策あり…「勝つ自信しかない。人生をかけて可能性を信じる」
寺地はジャブとボディで主導権を握る“距離の達人”である。そこにインファイトだけで突破口を開こうとしても完敗する。寺地の距離のボクシングにも対抗できなければ勝機はない。 「離れていても向こうのリズムに乗せないように。(寺地は)ジャブが上手い。それでポイントを取られないようにディフェンス力を強化してきた」 長谷川氏に授けられた秘策を徹底してきた。 その戦略をより洗練させるため、元3階級制覇王者の田中恒成(畑中)、日本ライトフライ級王者の矢吹正道(緑)、同フライ級王者のユーリ阿久井(倉敷守安)ら、この階級の国内トップクラスらとスパーリングで拳を交えた。 「いつもより緊張感が高く試合に近い感覚で集中できた」 スパーリングは過去最多の計240ラウンドに及んだ。 勝てば、長谷川氏の記録を塗り替えることになるが「それを狙っているわけではないが、称号を得られるのは嬉しい」と言う。 それでも7度防衛の王者は大きな壁となって久田の前に立ちはだかるだろう。スタイルは違うが京口よりもテクニックは断然上。ここ数戦は、KOに持ち込むパンチ力もついてきた。 しかし、逆行から這い上がるのは、久田のボクシング人生そのものである。2014年7月の村井貴裕戦に引き分けると、久田はジムへ顔を見せなくなった。 29歳だった。周囲から「もう辞めたら」の声も聞こえていた。 「子供もいた。ノーランカーに2試合続けてドロー。もう限界なのかと辞めようと思った」 だが、当時、まだ幼かった長女に「パパならチャンピオンになれるよ」と激励された。 「このままじゃ後悔する。子供にとってもカッコいいパパにならない。1年だけ頑張ろうと」と決め、年末にふらっとジムを訪れ、原田会長に再起を志願した。2015年3月の再起戦では僅差の判定で敗れたが、あきらめず5月にすぐ小坂駿との試合が組まれた。7ラウンドまで一方的にポイントをとられた。だが、8ラウンドに奇跡が起きる。一発逆転のTKO勝利。久田は「ボクシングには神がいるんだと思った」という。 そこから破竹の5連勝。2017年4月の堀川謙一との日本ライトフライ級王座決定戦に勝ち、ついに日本王者にまで上りつめた。 5度の防衛成功後、世界初挑戦して京口に敗れたが、心を折らず再挑戦に向かった理由は、彼が信じ続けて実証してきた人生観である。 「限界を自分に作るな、自分の可能性を信じろがモットーなんです。信念を貫けば実証できる。京口に負けたが、自分を信じて続けて、もう一度、世界を手繰り寄せた。そういう運がある。今回が証明する機会です」 原田会長も「久田は持っている男だから」と、その心の強さに賭ける。 ーー今度は「負けたら引退」の覚悟でリングに上がるのか? 筆者がそう聞くと、「ボクシング人生のすべてをかける。でもこの試合に負けることはないんで(引退は)考えていない」と一蹴した。 36歳の挑戦者…男の生き様。見せてもらおう。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)