ソフトバンク、基地局とAI処理を1台のGPUで実現、設備投資効率化へ新技術開発
「AIサービスを提供したい企業が、基盤となるインフラ部分を気にせずに開発に集中できる環境を目指している」と山科氏は説明する。 自動運転の分野では、ソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社であるモネ・テクノロジーズと連携。お台場での実証実験データを用いた検証も進めている。 今後の課題として、RANモードとGPUモードの高速化があげられる。現状、GPUの用途切り替えには約10分必要だ。「人流データなどを活用した需要予測で、切り替えのタイミングを最適化していく。将来的には数秒単位での切り替えを目指す」(山科氏)という。交通量予測のように通信需要を事前に予測することで、効率的な切り替えが可能になるという。
エリアによってはAI-RANの威力を発揮できない可能性もある。歌舞伎町のような24時間トラフィックの多いエリアでは、常時RANの制御用にGPUを確保する可能性があるという。 また、高性能なGPUを使用するため、サーバーの冷却も重要な技術課題だ。現状の空冷システムから水冷への移行も検討している。 ■グローバル展開を見据えた標準化 ソフトバンクはAI-RANの国際展開も構想している。 2025年から他の通信事業者向けリファレンスキット(参照実装)の提供を開始し、AI-RANの技術を世界の通信事業者に展開することで、モバイルネットワーク上でのAI処理を標準的な仕組みとして確立することを目指す。
富士通とはアメリカ・テキサス州ダラスに検証ラボを設立し、グローバル展開に向けた準備を進める。また、Red Hat社とも提携し、複数の基地局設備を効率的に管理するための技術開発を行うなど、実用化に向けた体制を整えている。Red Hatが得意とするクラウド基盤技術を活用し、多数の基地局設備を効率的に管理する仕組みを構築する。 「これまでMECは技術的な可能性は示されていたものの、実用化には至っていなかった。AIと通信の融合により、ついに実用的な形で実現できる」と山科氏は指摘する。
基地局をAI処理の基盤として活用する試みは、通信インフラの新たな可能性を示すものと言える。
石井 徹 :モバイル・ITライター