ソフトバンク、基地局とAI処理を1台のGPUで実現、設備投資効率化へ新技術開発
このシステムにより、2種類のAI活用が可能になる。1つは通信事業者自身によるAIの活用、もう1つは外部企業へのAIリソースの提供だ。 通信事業者自らのAI活用例としてソフトバンクは2つの実証実験を行った。 1つは自動運転の支援システムだ。AI-RANのサーバーに日本の交通知識を学習した「交通理解マルチモーダルAI」を実装し、自動運転車のカメラ映像をリアルタイムで分析し、交通状況とリスクを判断する。
例えば、横断歩道前の停車車両があるケースでは、日本の交通法規を踏まえ「歩行者が飛び出してくる可能性があるため、一時停止が必要」といった判断を行い、自動運転オペレーターの管理画面に提示する。 「車両側の計算能力を増強せずに、高度な判断が可能になる」とソフトバンク 先端技術研究所の山科瞬氏は説明する。自動運転車に搭載できる計算機には限界があるが、基地局側で高度な処理を行うことで、この制約を解消できる。
もう1つは警備ロボットの遠隔制御だ。通常のクラウド経由でLLM(大規模言語モデル)を使ったロボット制御を行うと、指示を出してから動作するまでに数百ミリ秒の遅延が発生する。オンラインゲームでいう「ラグ」のような状態で、ロボットの反応を見ながら適切な制御を行うことが難しい。基地局でAI処理を行うことでこの遅延を約100ミリ秒まで短縮。ロボットの動きを確認しながらスムーズに操作できるようになった。 ■外部企業にAIリソースを提供
もう1つの特徴が、通信トラフィックの少ない時間帯のGPUリソースを外部に提供できる点だ。オーケストレーターは空いているGPUの状況を確認し、NVIDIAが提供するクラウドサービス連携用のAPI(Serverless API)を通じて、他社のAI処理需要を受け入れる。 例えば、ChatGPTのような対話型AI「Llama 3」の利用といったAI処理を、空きリソースの範囲で実行できる。企業は独自のAIインフラを構築する代わりに、通信事業者の基地局設備を利用できる。通信事業者にとっても、基地局設備の稼働率を高めながら、新たな収益機会を得ることができる。