日本企業が「成功モデル」を捨てなければいけないワケ
この国の人口はどこまで減っていくのか。今年1年間の出生数が70万人割れになるかもしれず、大きな話題となっている。 【写真】日本人は「絶滅」するのか…2030年に百貨店や銀行が消える「未来」 そんな衝撃的な現実を前にしてもなお、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。 ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。 ※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。
パイの奪い合いは無意味
人口減少に打ち克つためには発想の転換が必要だと述べたが、まずすべきは量的拡大というこれまでの成功モデルとの決別である。 私は企業経営者とお会いすることが多いが、頂いた会社案内のフロントページに「業界シェアNo.1」とか、「〇〇地区で売り上げトップ」といった大きな見出しの文字が躍っているケースがいまだ少なくない。 人口がどんどん増えていた時代には売り上げを伸ばすことが、そのまま利益の拡大を意味していた。しかしながら、国内マーケットが急速に縮小する社会において、パイの奪い合いをしても誰も勝者にはなれない。 パイの奪い合いを続けていくことがいかに無意味なことかは、金貨が100枚入っている器をイメージして考えれば理解しやすいだろう。金貨は人口、すなわち国内マーケットのことだ。 現状において、業界トップの企業がシェアの半分である50枚、2番手企業が35枚、3番手企業が15枚を手に入れていたとしよう。しかしながら、人口減少とは数十年後に金貨70枚のゲームに変わるということである。 仮に、業界トップ企業がシェアを50%から60%に伸ばしたとしても得られる金貨は42枚でしかなく、現状より8枚減る。金貨の絶対数がどんどん減っていく社会においては、シェアが100%になろうとも手にできる金貨は年々少なくなっていくのだ。 拡大どころか現状維持すらできない。国内需要を当て込む以上、シェアの拡大モデルでは限界があるということだ。 こうした点を踏まえず、生産体制強化のための設備投資や店舗数の拡大をしている企業が少なくない。目の前の需要に応え、ある時点までは売上高を大きくすることはできるだろうが、人口減少社会ではそうした投資はいずれ経営の重荷となる。拡大のための投資を一切すべきでないとは言わないが、今後の人口の変化に応じていつでも転用や撤退ができるようにしておく必要がある。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)