災害大国日本、“もしも”に備えて考えておきたい「オーディオファン的 防災ラジオの選び方」
■オーディオ好きの視点で防災ラジオを選ぼう! 本日9月1日は「防災の日」。防災の日であろうがなかろうが防災意識は常に必要だが、この機会にその意識をさらに高めておくのはよいことだ。ということで今回は防災に関わるオーディオアイテムに注目。「非常時持ち出し防災バッグに入れておくためのラジオの選び方」を考えてみよう。 チューナーやイヤホン端子など、気をつけたいポイントは? いまやスマホがあればラジオ聴取も含めてだいたいのことは何とかなる。しかし逆に言えばそのスマホのバッテリーが切れてしまったらだいたいのことが何ともならなくなってしまう。なのでその消費はできるだけ減らしたい。 そこでラジオ聴取にはラジオそのものを用意しておこうというのが前提の話。そしてその製品選びには「ポータブルオーディオマニアが防災ラジオを選ぶ際はここに注意!」なんてポイントもあったりするのだ。 いきなり具体的に挙げるが、筆者が防災ラジオとして選んだ製品がこちら、オーム電気「AudioComm DSPポケットラジオ AM/FMステレオ RAD-P300S」となる。直販価格は2,948円だがネット通販全般では2,000円前後の値付けが多い。 このRAD-P300Sを例として、オーディオ好き視点も交えての防災ラジオの選び方、その一例を紹介していこう。 ■ポタオデファンとして防災ラジオ選びで気にしたポイント RAD-P300Sを選んだ理由=筆者が防災ラジオに求めた条件を、まずはざざっと挙げよう。 ●必要十分に小型軽量であること ●乾電池駆動が可能であること ●乾電池の種類が単4であること ●デジタルチューナーであること ●イヤホン一体型ではなく外部イヤホン接続型であること ●外部イヤホン端子が3.5mmであること ●ステレオイヤホンの左右両方から音が出ること ●防災時しか使わないものなので手頃な価格であること 以降はなぜそれらを必須条件としたのかを説明しつつ、それを満たすRAD-P300Sを紹介していく。説明に目を通して「なるほど」となったところはご自身の製品選びにも取り入れていただければと思う。「自分の考え方には合わない」「自分の環境には適さない」というところもあるだろうから、自身の考えや環境にフィットしそうなところだけピックアップして取り入れていただければOKだ。 1.必要十分に小型軽量であること 小型軽量を重視するのは、説明するまでもなく、防災バッグに収納できる容量や背負って歩く際の重さとの兼ね合いからだ。例えば手回し充電機能や防水タフ仕様も防災ラジオとしては魅力的なのだが、そういった機能や仕様を備えた製品は大柄になりがち。なので今回は候補から外した。 ただ「自分、体力に余裕あってバッグはデカいの用意してますし重さも気になりません!」という方は、その余裕に合わせた製品選びをするのもありだろう。 「必要十分に」という言い回しもポイントで、「最小・最軽量」とかにはこだわっていない。というのも、ライターサイズなどの超小型軽量な製品は、筆者が見まわした範囲では、以降で紹介する他の条件を満たせなくなる場合が多かったのだ。 対してRAD-P300Sは他の条件もしっかりクリアしつつ、縦横おおよそカードサイズで本体重量62gと必要十分に小型軽量。しかも薄さはポケットラジオの中でも最薄クラスの16mmだったりする。十分すぎだ。 2.乾電池駆動が可能であること 「乾電池駆動が可能な製品を選ぶ」とは、逆に言えば「内蔵充電式バッテリーでしか動作しない製品は選ばない」ということ。理由は「バッテリー管理が面倒だから」に尽きる。 充電式バッテリーの管理の面倒さや厄介さは、ポータブルオーディオ好きな方こそ身に染みているはず。昔に愛用していたDAPやワイヤレスイヤホンを引っ張り出したらまずもちろん充電切れ。さらに長期の過放電で電池性能は著しく劣化。そんな経験があるのではないだろうか。普段使わないアイテムのバッテリー管理なんてそんな感じになってしまうものだ。 しかし防災アイテムに「いざというとき使えませんでした」は許されない。ならば対応策は「放置せず定期的に使って、放電/充電といったバッテリー管理をする」か「放置しても問題ないタイプの製品を選ぶ」のどちらかだ。 筆者のような人種には前者は無理なので後者を選んだ。そのための乾電池駆動だ。ポータブルラジオといまどきの乾電池の組み合わせであれば、一年くらい電池入れっぱなしで放置しても、自然放電で電池の大半が消費されてしまうとか、液漏れが起きてしまうとかいうことは、ほぼ起きないだろう。「ほぼ」という点に不安を覚えるようであれば、電池をラジオに入れずに、でもラジオと一緒にパッキングしておく形にすればよい。ラジオと電池を合わせて小袋にまとめておくなどだ。 なお電源周りでいうとRAD-P300Sの電源ボタンは、長押しではなく普通に押すだけで電源オンとなる仕様。そのままだとバッグの中で何かに押されたりして電源が入ってしまう危惧もある。であるがメーカーもそこは抜かりなく、ロックボタン長押しでの誤動作防止ロック機能の搭載で対策。 ただその上でも少し気になるのは、電源のオンオフに関わらず常に画面に現在時刻が表示されている点。年単位での防災バッグに入れておくなら、僅かながらの電池消耗はあるかもしれない。杞憂民である筆者としてはこの観点からもやっぱり、電池は抜いた状態でパッキングしておく予定だ。 3.乾電池の種類が単4であること 乾電池での使用が可能なことに加えて、その乾電池の種類も気にかけておきたい。昨今の小型家電で使われている乾電池の主流は単4と単3だろう。そのうち各自のご家庭で「リモコン用とかで日常的により多く備蓄してある種類」や「防災バッグに入れておく懐中電灯など他の家電と共通で使える種類」などにラジオに使う乾電池の種類も合わせておけば、備蓄管理や防災バッグの整理がしやすくなりそうだ。 ということで筆者の場合、身の回りや防災用の乾電池製品はできるだけ単4使用のものを選ぶようにして、備蓄と防災バッグの電池を単4中心で賄えるようにしている。なので防災ラジオも単4使用のものが望ましい。RAD-P300Sは単4×2本なのでここもクリアしている。 4.デジタルチューナーであること ラジオ受信機において、アナログ選局チューナー採用機とデジタル選局チューナー採用機の使い勝手の違いは相当に大きい。特にそもそもの電波状況が劣悪な都心部では、アナログチューナーの選局ダイヤルは超微細に少しずつ回しての調整が必要だ。 その点デジタルチューナーはそれより高精度のチューニングを自動で行ってくれるので、操作が楽なことに加え、結果的によりクリアな受信も期待できる。ストレスが多いであろう災害時、チューニングに手間取ったりして余計な追加ストレスを感じたくはない。ここは楽をできるようにしておきたいところだ。 RAD-P300Sは曰く「デジタルで一発選局、高感度DSPポケットラジオ」とのことであるからこの点もバッチリ! ……なはずだが、使い勝手はともかく、ラジオの感度ばかりは実際に使う環境で試してみないことにはどうにもわからない。 ということで筆者自宅内とその一歩外で試してみた。東京都内ではあるが都心よりも多摩の山に寄っていて、しかしそれでもラジオの電波状況は劣悪で、AMだろうがFMだろうワイドFMだろうが室内ではまともに受信できない局ばかり。そんな環境だ。 そんな環境で、比較対象として同じくオーム電気の、DSPともデジタルとも表記されていないのでおそらくはアナログチューナーであろうポケットラジオ「RAD-P136N」も用意し、チューニングのしやすさ、受信できた局の音声のクリアさなどをテストした。 結果をまとめると、 ●デジタル機RAD-P300S 受信環境がよろしくない局では背景ノイズの周波数が高めかつ不安定なせいでそれがやや耳障り。しかし音声自体のクリアさではアナログ機に一歩勝る。受信環境最悪の室内では、こちらでなら何とか聴取可能だが、アナログ機では音声よりノイズの方が大きくて無理といった局もあった。 ●アナログ機RAD-P136N 受信環境がよろしくない局でも背景ノイズの周波数が低めかつ安定しているおかげか、その耳障り度は低い。音声自体もクリアさでは劣るものの柔らかな音調で好ましく感じる。しかし上述のように、受信環境が悪くなればなるほどにS/Nは著しく悪化しデジタル機との差が開く。 といったところ。受信環境が悪くなければアナログ機でもよい、むしろアナログ機が良いまであるかもしれない。であるが、自宅はともかく避難場所のラジオ受信環境など全く不明であるから、最悪の受信環境も想定してデジタル機にしておくのがやはり無難かと思う。 なおデジタルチューナー搭載機は機能も豊富。しかし代わりに「どのボタンを長押しでスリープタイマー」などのように、操作系は複雑化しがちだ。製品に紙の説明書も付属していたならば防災バッグにはそれも一緒に入れておくとよいだろう。 聞くために大事なイヤホン周り、どこに注意する? 5.イヤホン一体型ではなく外部イヤホン接続型であること ポケットラジオの中には、掃除機の電源ケーブルのようなコード巻取り式でイヤホンを内蔵するタイプの製品もある。それはそれで便利なのだろう。 しかしポータブルオーディオ好きであれば、たとえ災害避難時であろうともお気に入りのイヤホンを持って避難するはず。それに耳慣れなくて違和感のあるイヤホンでラジオを聴けば、その余計な違和感がちょっとしたストレスになってしまうかもしれない。 だが耳になじんだイヤホンならそんな心配もないわけだ。自分にとって着け疲れない装着感で聴き疲れない音調で耐久性等の信頼感もある、そんなイヤホンを防災バッグに備えておきたい。 ということで、そういったイヤホンを普通に接続して使える、外部イヤホン端子を搭載した製品を選んでおきたい。ただし、イヤホン端子搭載というスペック記載さえあれば安心なわけではない。むしろここからが要注意だ。 6.外部イヤホン端子が3.5mmであること まずポケットラジオにおいては、2.5mm端子採用の製品も無視できない程度の割合で存在する。2.5mmといってもバランス駆動対応なわけではない。おそらくは単に小型化のためだ。 その2.5mmジャックのラジオに3.5mmプラグのイヤホンを接続しようとすれば変換プラグや変換ケーブルが必要になる。防災バッグの中で邪魔になるサイズのアイテムではないが、接続が煩雑になるのは嬉しくない。有線イヤホンの弱点、ストレスになりがちな要素といえばケーブルの取り回しなのだ。そのストレスを増す可能性のあるものは排除しておきたい。ポタオデ好きの防災ラジオ選びではイヤホン端子3.5mmは必須! と強くおすすめする。 だが3.5mmイヤホン端子搭載ならそれでOKではない。いちばんわかりにくい罠が最後に残っている。 7.ステレオイヤホンの左右両方から音が出ること ラジオ放送はモノラルから始まっており、現在でもモノラル受信のみ対応のラジオ受信機も珍しくない。そして防災ラジオとしてはそれで十分でもある。 しかしオーディオファンお気に入りのイヤホン、当然それは両耳に装着するステレオイヤホンだが、それを使うにあたっては、そのモノラル放送がイヤホン端子からどう出力されるかというのが大きなポイントになる。主なパターンは以下の通り。 〇 ステレオ受信対応機でイヤホン端子もステレオ出力→ステレオ放送もモノラル放送もちゃんとステレオイヤホンの左右両方から聞こえる 〇 モノラル受信のみ対応機だがイヤホン端子はステレオイヤホンにも配慮された仕様→同じくちゃんとステレオイヤホンの左右両方から聞こえる × モノラル受信のみ対応機でイヤホン端子もモノラルイヤホンへの出力しか想定していない仕様→ステレオイヤホンを接続すると片方の耳の側からしか音が聞こえない。 では、片方の耳の側からしか聞こえないと何が問題なのか。前提として、片耳モノラルイヤホンが付属するラジオも多いことからわかるように、ラジオ聴取では「片耳イヤホンでのながら聞き」スタイルも一般的だ。そして避難時にも、周囲の様子を把握しながらの「ながら聞き」は有効だろう。 その際、イヤホンの左右どちらか片方からしか音声が聞こえない状態だと、ユーザーは左右どちらのイヤホンを耳に着けるかを好きに選べなくなる場合がある。右耳の方が聴きやすいからそちらに装着したい、左耳に装着した方がケーブルの取り回しがしっくりくるからそうしたい、右耳が疲れたから左耳に着け替えたい。片側からしか音声が聞こえなくて、かつイヤホンが左右を入れ替えての装着が難しい形状だと、そういうときにちょっと厄介なのだ。 リケーブル機構があればそれで左右を入れ替えて対応できるが、すると今度はスマホやDAPで音楽を聴くとき左右反転に。そのたびに左右の接続を入れ替えるのも面倒だろう。 であるので、イヤホン端子からの出力のステレオイヤホン対応具合も、オーディオファンの防災ラジオ選びにおいては見落としたくないところだ。 今回筆者が選んだRAD-P300Sは当然、「外部イヤホン端子搭載」「3.5mm」「ステレオ受信&ステレオイヤホン対応」となっており、イヤホン周りの条件も全て明快にクリア。 さてしかし面倒なことに、 〇 モノラル受信のみ対応機だがイヤホン端子はステレオイヤホンにも配慮された仕様→同じくちゃんとステレオイヤホンの左右両方から聞こえる パターンは仕様として特に記載されていないことも多い。そういった配慮がされていてもいなくても、どちらもただ「3.5mmイヤホン端子(モノラル)」の記載だけだったりするのだ。説明書には詳しく記載されている場合もあるので、説明書がダウンロード可能かを確認してみるとよいだろう。 ちなみに先ほど比較対象に持ち出したRAD-P136Nはモノラル受信&モノラル端子で、説明書には「本機のイヤホン端子はモノラル出力用です。ステレオタイプ(両耳型)のイヤホンを接続すると、片側のイヤホンからだけ音声が出力される場合があります」との記載あり。実際に試してみたところ、筆者の手近にあったイヤホンいくつかとの組み合わせでは、モノラル音声を問題なく左右両側から出力してくれた。 なお参考までに、モノラルジャックにステレオプラグを絶妙に「半挿し」するとステレオイヤホンの両耳に音が出力されるという裏技も、あるにはある。 しかし"絶妙な"半挿しが条件なので、ちょっと身を動かしてケーブルを引っ張ってしまったりするだけでその絶妙な状態が崩れ、片耳状態に逆戻りしたりしがち。この裏技に頼る前提での製品選びはやめておいた方がよい。 8.防災時しか使わないものなので手頃な価格であること これについては何というかもう逆に、高価で高性能なポケットラジオというものがほぼ絶滅してしまっていた。例えばソニー「SRF-T355」も、ヨドバシ.comでは「販売終了商品 販売終了時の価格:¥8,620(税込)」となっている。そして現在も販売しているネットショップではその3倍ほどのプレミアム価格だ。それはさすがに手を出しにくい。 対してRAD-P300Sは前述のように2,000円前後と、「とりあえず買っとくか」でいけちゃうお値段。ありがたい。 ■趣味要素を持ち込んで楽しく準備! 以上が筆者が防災ラジオの製品選びで重視したポイントだ。特にイヤホン端子周りのあーだこーだなどは、一般の方々からすれば「製品に付属のイヤホンを使えばいいだけでしょ」で終わってしまう話であることは否めない。 であるが災害を想定してそれに備えるなんて、基本的には楽しいことではないのだ。だからこそせめて、そこにちょっとした趣味要素を持ち込んで製品選びを楽しんだっていいじゃないか。ラジオに限らず防災アイテム全般、そうやって選んでみるのもありなのではないだろうか。 高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 [連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら
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