リーダーはメンバーの夢を変えよ!「アップサイド」引き出すガイアックスの人材育成の流儀とは【インタビュー】
市場の波にさらすことで、生き続けられる人を育てる
前川 そうした独立採算のチームはいくつくらいあるのですか? また、情報やコミュニケーションをオープンにすることは理想ではありますが、実態として各チームはうまく回るものですか? 上田さん 現在は、約20チームほどです。もちろん、全てがうまくいく場合ばかりではありません。1つは、社内での人材引き抜きが自由なので、人が然るべきほうへ流れます。うまくいかないチームは、自然とシュリンクしていきますね。 弊社は「ティール組織」(F・ラルー)の中に描かれている「グリーン組織」(家族的で温かい組織)では決してありません。むしろ、いかに弱肉強食のジャングル状態にするかにこだわっています。 前川 そのほうが自然の生態系に近いので、過保護にならない。ジャングル状態で生き続けられるようにすることで、人も事業も育つということですね。 上田さん 僕たちが一番怖いのは、市場の波です。市場の波に、各事業部やメンバー一人ひとりを常にさらす状態をつくっているのです。 魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちが戦うこのマーケットの中で、資本家、従業員、顧客それぞれの満足度を勝ち取りながら歩み続けるのは、とてもきついことです。 だから、変にオブラートに包まないやり方でやっていこうと。 前川 なるほど。その意味では、多くの企業は組織の内と外を区別して、内部の社員を守ろうとするがゆえに組織の論理が先行し、市場や社会と乖離するという不本意な結果になっているのかもしれません。 上田さんの方法は、社員を囲って守るのではなく、社会の荒波にさらして自ら成長せよということですね。
「赤の他人同士がつながる世界をつくる」ための3つの事業領域
前川 御社では、ソーシャルメディア、シェアリングエコノミー、web3/DAO(Decentralized Autonomous Organizationの略)の3つの領域を、主な事業として展開されています。 これらに共通するビジョンは、やはり「人と人をつなぐ」というところに収れんされるのでしょうか。 上田さん はい。「赤の他人同士がつながる世界をつくる」ことをやっています。 このうち、オンラインだけで行う部分はソーシャルメディアと呼ばれ、そこにリアルが関わってくるとシェアリングエコノミーと呼ばれる。 DAO(自律分散型組織)も少し形態は違いますが、よく似たものです。私たちのやりたいことは1つですが、世の中のとらえ方の区切りに合わせて3つの呼称にしています。 たとえば、地域住民の脳が皆つながり、地元で一番美味しいレストランを選ぶのがソーシャルメディア。また、各家庭で毎回食事をつくると手間なので、隣の家で食べさせてもらおうというのが、シェアリングエコノミーです。 前川 つまり、追求していることは1つですが、世の中での受け止められ方に応じて、3つの分野を名付けたということですね。 「自律分散型組織やコミュニティの分野を強化する」ともうたわれていますが、これも同じ内容を、わかりやすい言葉で語っているということでしょうか。 上田さん 人の脳と脳がつながっているのが、効率的な状態だと考えています。 1つの株式会社は概ね中央管理型ですが、日本経済は自律分散型です。皆が経済産業大臣の指示のもと、いっせいに動くわけではありません。各人、各企業が資本主義社会の原理でつながっているのが現状です。 ただ、私は必ずしも資本主義でつながるのが必然とは思いません。 うちの組織で重視しているのは、情報のシェアです。 社内だけではなく、世の中に対して常に情報発信を徹底するよう奨励しています。相談はしなくていいが、報告は必ずするようにと言っています。報告があって初めて、脳と脳がつながれるわけですから。 これを組織について言うなら自律分散型組織だし、サービスについて言うならオンラインでありソーシャルメディアなわけです。 前川 そのように個人同士の思考が隈なくつながり、情報が明確になった中で、各自が適切な方向に向けて自律的に動いていくということですね。