キリン「晴れ風」が絶好調 “ビール好き”以外をどうやって取り込んだ?
キリンビールが4月に発売した17年ぶりのスタンダードビールの新ブランド「晴れ風」の勢いが止まらない。販売好調を受けて7月に年間販売目標を300万ケースから550万ケースに上方修正。その後も順調に売れ続け11月13日には、その9割にあたる500万ケースを突破した。 【写真を見る】「晴れ風」に起用された目黒連、今田美桜 なぜここまで売れたのか。同社マーケティング本部マーケティング部のビール類カテゴリー戦略担当の小澤啓介氏に話を聞いた。
年代が下がるほど「ビール購入」の割合も低下 どう覆した?
ビールを取り巻く環境は厳しい。博報堂買物研究所が2月に発表した「値上げ・物価高騰に関する生活者調査」によると、83.7%がアルコールを購入する際、節約を意識すると回答した。国税庁課税部酒税課が2022年3月に公表した「酒のしおり」を見ても、「酒類課税移出数量の推移」でビールの量が大きく減少。「ビールから低価格の発泡酒やチューハイ、ビールに類似した酒類(新ジャンル)に消費が移行している」と分析している。 調査会社マクロミルが2022年に公表した「ビール消費に関する実態調査」では、Z世代(20~27歳)でビールを購入したことがある男性は47%、女性は31%と、世代が下がるほど購入割合が低くなることが分かっている。
飲みごたえと飲みやすさ 味の両立に苦心
販売環境としてビール離れが起きている一方で、経営的には追い風も吹いている。2020年の酒税法の改正だ。改正以前は最も安い新ジャンルのビールとは49円の価格差があった。これが2023年には新ジャンルと発泡酒の価格差が16.36円に縮まり、2026年には酒税の価格差はなくなるのだ。小澤氏は「価格面で、顧客が狭義ビール(従来のビール)を買いやすい流れになってきています」とハンディが縮まった効果を認める。 17年ぶりに狭義ビールの新商品を発売するにあたり、味には特にこだわったという。「これまで、飲みごたえと飲みやすさは両立しないと思われてきました。これは顧客の認識でもありましたし、業界の常識でもありました。もし両立できるバランスを見つけられれば、新しい価値提供になるので、そこに苦心しました」 「今の若者は、ビールは苦いから飲まない」という声をよく聞く。キリンビールは2023年6月に「ビールを家庭で飲まない理由」という調査結果を明らかにした。その調査によると「味が好きではない」と「苦みがありそう」が、上から2番目と3番目に来ている。 両立を目指すべく、テストは従来よりも多く繰り返した。新商品を開発するときのテストは、1回で10種類以上を試飲し、それを複数回、繰り返すそうだ。晴れ風は「それ以上の回数をやりました」といい、こうして今の味にたどり着いた。 小澤氏は、晴れ風というユニークな名前の由来を明かす。 「ビールを飲むときには、例えば『今まで仕事を頑張ったから、今日はみんなで居酒屋で乾杯する』というようなイメージがあったと思います。一方の新しいビールでは、晴れた空の下で気持ち良く飲んでほしかったのです。そのコンセプトを分かりやすく伝えられる名前を考えた際に『風』という単語があることに気が付きました」 ターコイズブルーという絶妙な青さを缶の色に選んだ理由については「爽やかさを体現し、かつ店頭でお客さまの目にとめてもらえる色だからです」と話す。