なぜ渋沢栄一は子供たちに財産を残さなかったのか…日本資本主義の父が理想とした「合本主義」とはなにか
■環境と経済の共存は可能なのか そして今、渋沢栄一も予期していなかった新たな課題が現れました。 環境問題です。 栄一は、社会の平等を実現させ、持続させていくために、経済に道徳というアナログなものを取り入れようとしました。ただ、彼の時代にはまだ環境問題は表面化しておらず、無尽蔵な地球環境の中で、暮らしと経済活動のバランスを取ることさえできれば、より良い社会が実現すると考えていました。 しかし、現在、自然が有限であることに気づいた私たちは、日々の暮らしと経済活動に加えて、地球環境も加えた三者のバランスを見出すことが必要なフェーズに入ったと言えるでしょう。 これまでの経済活動も続けながら、自然と共生することは可能なのでしょうか。 渋沢栄一が論語(=道徳)と算盤(=経済)の両立を唱えたように、「森」=有限な地球と、「算盤」=経済を共存させることは可能なのでしょうか。 環境問題と渋沢栄一は、一見結びつかないように思えるかもしれません。しかし、自然を守り、次世代につなげていくことは、栄一が生涯を通して成し遂げようとした「公益の追求」につながるものだと考えています。 これは、資本主義やお金を否定する、ということではありません。 ■いまこそ渋沢栄一の合本主義を 資本主義を完全に否定するのではなく、資本主義の中で生活しながらも、それだけではない価値観を、この有限な地球の中で、自分たちでつくり上げていくということです。 自分たちの足元にある地域の価値を創造し、確認し合う。目の見える範囲の人と「心ののりしろ」を重ねていき、文化を積み上げていく。地域間を肉体的に横断していき、ときにはSNSも使いながら結びついていく。 このように、限界を迎えた地球環境の中では、経済ではなく「想い」をグローバル化することこそが、渋沢栄一が唱えた「合本主義」を実現することではないかと私は考えています。 ---------- 渋沢 寿一(しぶさわ・じゅいち) NPO法人共存の森ネットワーク理事長 1952年生まれ。1980年、東京農業大学大学院博士課程修了。農学博士。国際協力機構専門家としてパラグアイに赴任後、循環型都市「ハウステンボス」の企画、経営に携わる。全国の高校生100人が「森や海・川の名人」をたずねる「聞き書き甲子園」の事業や、各地で開催する「なりわい塾」など、森林文化の教育・啓発を通して、人材の育成や地域づくりを手がける。岡山県真庭市では木質バイオマスを利用した地域づくり「里山資本主義」の推進に努める。 ----------
NPO法人共存の森ネットワーク理事長 渋沢 寿一