「かっこいいと言わせたい」――世界初のプロレス義足で戦うレスラーと義肢装具士の挑戦
義足だから、「かっこいい」
谷津さんはプロレスラーとして復帰するうえで、もう一つこだわったことがあった。それは本来、川村義肢の発想にはないこと。“エンタテインメントとしての義足”だ。谷津さんは満足そうに語る。 「ソールが取れる仕様になっているんです。違うスポーツだったら取れちゃまずいかもしんないけど、『取れなかったら意味ねえだろ』って、それを凶器にする(笑)。これ相当痛いですよ。普通は凶器を隠し持っちゃダメでしょう。でもこれは自分の体の一部だから」
歩行や運動を補助するのが義足の役割のはずだが、これもプロレスラー用ならではか。 小畑さんも笑う。 「義肢装具士になるには専門学校や大学を卒業して、国家試験を受けます。そこには義足の教科書があるんですが……、ちょっと外れていったところはあります。まあ、プロレス用っていう時点で最初から外れていたかもしれませんが(笑)」 機能性やエンタテインメント性に加えて、レスラーとしてのかっこよさも小畑さんたちは追求した。ソケットを留めるダイヤルの色について、チームの一人が「谷津さんやったらゴールドやろ」と言い、その通りになった。
ソールを凶器にして義足で膝蹴りする。このアイデアを聞いたとき、川村社長は「ええやん!」と喝采したという。当時をこう振り返る。 「僕らが子どものとき、『ライダーマン』ってヒーローがいて。手がいろんな武器になるわけです。かっこよかった。途中、高木が『谷津さんの足から毒霧を出したい』とか話していて、こいつ、アホちゃうかと思ってたんですけど。でも、やれんことないで言うて(笑)」 片手をなくしてしまった男が、その手に様々な武器をつけ替えて戦うというライダーマン。義肢を扱う川村社長にとって原点の一つでもある。近年、義肢をつけて健常者以上に活躍する選手も増えた。 「『障害者』=『かわいそう、哀れ』というのは違う。障害者が義肢をつけて、『ずるい、かっこいい!』って言われることをしたいんです」 そこで必要なのは対話、コミュニケーションだと、川村社長も言う。 「もっとわがまま、言うてほしい、障害を持つ人に。もういろいろやってもらっているからこれ以上言うたらあかんって思わしたら、僕らはプロじゃない。こんなんやりたいねん、あんなんやりたいねんって言い続けてもらわなければいけません」