「かっこいいと言わせたい」――世界初のプロレス義足で戦うレスラーと義肢装具士の挑戦
世界初の“プロレス用義足”ができるまで
川村義肢は大阪府大東市にある業界のリーディングカンパニー。チェアスキーでパラリンピック2大会で金メダルを獲得した狩野亮選手や、カヌー競技で東京パラリンピックに出場予定の瀬立(せりゅう)モニカ選手をはじめ、国内外約30人に競技道具の提供やサポートをしている。 実は高木社長と川村義肢の川村慶社長は、中学の同級生で、大阪で試合があるときは酒を酌み交わす間柄。川村社長は、谷津さんの件を初めて高木社長から聞いたときのことを振り返る。
「(当初は)高木に『谷津さん知らんの』って言われたときに、『何かそういう人もいたかな』って感じで、あまりピンと来なかったんです。それで、義足でプロレスをするというから、何考えてんのかなって思ったんです」 もともと、高木社長を通じてプロレスに理解はあった。だからこそ、義足でリングに上がる大変さも理解していた。それでも「頼まれごとっていうのは、試されごと」という普段からのモットーで製作することにした。 川村義肢には165人の義肢装具士、130人の義肢装具技能士がいる。その中から小畑祐介(48)さんが名乗り出た。これに社長は驚いた。 「何でかって、小畑さんは、障害のあるお子さんを対象にしたエンジニア、義肢装具士であって、60代の糖尿病のプロレスラーの義足を作るっていう発想は私にはなかったんです」 一方、小畑さんは、障害のある子たちと関わってきたからこそ、この仕事を引き受けたという。 「これまでの20年ぐらいで何百人もの子どもたちと関わってきたのですが、ミラクルをずっと見てきています。片方義足で、片方は足の指1本しかないお子さんが、誰の手も借りずに一輪車に乗って動かすんです。『まさかそんなん、できるわけないやろ』と思うことを目の前でたくさん見せてもらっています」
子どもたちの困難の先にミラクルがある。谷津さんも同じように奇跡を起こせる。そう信じてプロジェクトは動きだした。