デジタル鎖国のイラン、スターリンク端末が「闇市場」で出回る 2万人が利用
米国政府はかつて、同国のテクノロジー企業がイラン国内でインターネットサービスを提供することを禁止していたが、2022年にその規制を緩和した。これを受け、今では中東のこの国の約2万人が、スペースXの衛星インターネットを用いて検閲のないウェブにアクセスしている。 モハンマドと名乗る38歳の建設コンサルタントの男性は昨年11月、イラン南部の都市の自宅近くの路地で待ち合わせを行った。彼は、通信アプリTelegram(テレグラム)で見つけた売り手と会って、700ドル(約11万円)を支払って違法な通信端末を購入しようとしていた。それは、イラン政府が脅威と考える検閲のない自由なインターネットへのアクセスを可能にするスターリンクの端末だった。 米国企業スペースXが開発したスターリンクの衛星インターネットは、世界で最も厳しいネット規制を持つ国の1つであるイランで禁止されている。同国は、アップルやグーグルのアプリストアや、インスタグラムやSlackのようなアプリをすべて政府による検閲でブロックしており、反イスラム的もしくは反体制的な発言をオンラインで行った者は逮捕されることが多い。 しかし、スペースXの創設者であるイーロン・マスクがサービスを開始して以降、イランにおけるスターリンクの使用は急増した。サービスの利用には、罰金や投獄のリスクを伴うが、闇市場は活発化している。フォーブスは現在、約2万人がイラン政府による検閲や遮断がほぼ不可能な高速インターネットにアクセスしていると推定している。 ただし、これらのユーザーは、人口8900万人のイランのごく一部の人たちに過ぎない。平均月収が250ドル(約3万9000円)とされる同国で、スターリンクの端末販売価格は700~2000ドル(約11万~31万3000円)で、一部の特権的な層しか購入できない。さらに、このサービスの利用には月額70ドル(約1万1000円)が必要であり、イランの銀行に対する米国の制裁の影響で、暗号資産やプリペイドのクレジットカードを使った煩雑な手続きが必要となる。加えて、アカウントを有効化するために「域外手数料」として200ドル(約3万1000円)を支払うことを求められる。 それでも、これらの費用を支払うことが可能な人が、リスクを冒してまで端末を購入する理由は多岐にわたる。フォーブスが話を聞いた複数のイラン人ユーザーによれば、検閲のないインターネットはビデオ通話やオンラインゲームの高速化、SNSへの自由なアクセス、言いたいことを言える場の確保、そして政府に対抗するための組織の運営に欠かせないという。