デジタル鎖国のイラン、スターリンク端末が「闇市場」で出回る 2万人が利用
「イランでスターリンクが大規模に普及すれば、デジタルに対する抑圧との闘いにおける革命となる可能性がある」
■デジタルに対する抑圧との闘い ロサンゼルスを拠点とする活動家団体Holistic Resilienceのアフマド・アフマディアンは、「イランでスターリンクが大規模に普及すれば、デジタルに対する抑圧との闘いにおける革命となる可能性がある。米国資本のラジオ・フリー・ヨーロッパが冷戦時代のソ連のプロパガンダの壁を打ち破ったように、スターリンクはイラン政府のデジタル版『鉄のカーテン』を破壊できるかもしれない」と述べている。 モハンマドの場合、スターリンクの衛星インターネットは仕事に役立つという。彼の業務は、カナダ在住の顧客と連携する必要があり、イランのきわめて遅いインターネットが業務における障害となっていた。彼は、顧客のDropboxにアクセスできず、ファイルやドキュメントを送信できないこともあった。 モハンマドは、「NasNet」と呼ばれるペルシア語のテレグラムチャンネルでスターリンク端末の売り手を見つけたという。「まるでピザを受け取るような感じだった」と彼はフォーブスに語った。 NasNetはスターリンクの普及を後押しするだけでなく、セットアップや技術的問題についての解説をYouTubeで公開している。これらの動画は主に、ヨーロッパに10年間住んでいる匿名のイラン人女性が制作しており、プライバシーを守るため顔を隠している彼女は、フォーブスに対して「オープンで検閲のない高速インターネット接続は、人生を変える力を持つのです」と語っている。 「それは、多くのイラン人にとってほとんど信じられないものです。砂漠の真ん中で突然井戸を見つけた人のようなものです。最初はそれが本物だと信じらません」と彼女は続けた。
スターリンクのインターネット接続に伴うリスク。「近所に住む人を信用できない」
■2022年の抗議デモ スターリンクがイランで初めて利用可能になったのは、22歳のマフサ・アミニという女性が、ヒジャブと呼ばれるスカーフで髪や手足を十分に覆っていなかったという罪で警察に逮捕され、拘留中に亡くなったことを受けて人々が抗議デモを開始した2022年のことだった。 このデモを受けて米国政府は、イランに対するインターネット規制を緩和する方針を示し、ブリンケン国務長官は同年9月に「イラン政府の検閲に対抗するためのデジタル通信へのアクセス」 を支援するとツイッター(現X)で述べた。マスクは、このツイートに対し「スターリンクを起動する」とリプライした。 「当社のサービスを利用するには、イラン国内に端末を設置する必要があり、政府がこれを支援するとは思えないが、もし誰かが端末をイランに持ち込むことができれば、サービスは利用できる」と当時マスクは語っていた。 その後の数カ月間で、ロサンゼルス在住のイラン系米国人の活動家のメフディ・ヤヒャネジャドは、地元のNPOや民間の寄付者から資金を調達し、約100台のスターリンクの端末を購入し、イラン近郊の活動家や協力者に送付し、密輸を支援した。 ヤヒャネジャドはまた、イランのユーザー向けに端末を改良するようスペースXに要請した。彼の助言を受けて、同社は折りたたみ可能なポールマウントを導入したほか、独自規格のケーブルの代わりに取り外し可能なイーサネットケーブルを採用した。この結果、端末がバックパックで簡単に運べるようになった。 モハンマドは、スターリンクのインターネット接続に伴うリスクを十分に認識している。同社の端末は、空が見える場所に設置する必要があるが、彼は端末を屋内のバルコニーのドア付近に設置し、黒いカーテンで覆っている。「近所に住む人を信用できない」と彼は言う。 そのため、ネットの接続速度は本来の半分程度に低下していると彼は推測している。しかし、それでも「以前のインターネットよりはるかに良い」とモハンマドは語っている。
Cyrus Farivar