フィンランドでベーシックインカム導入と“誤報” 実際の進ちょく状況は?
フィンランドでの現状の動き
フィンランドでは、今年4月に行われた総選挙で、野党だった中央党が躍進し、連立政権の中核となり、同党のユハ・シピラが首相となりました。ベーシックインカムの「給付実験」を行うことは同党の選挙公約で、シピラ首相もベーシックインカムに賛成しており、政権発足後、実験の実施に向けた準備が進んでいます。 この10月に、実験をどのように行うかについての調査グループが発足しました。来年春には調査グループによる政府の関係省庁や機関へのブリーフィングが行われ、来年後半には最終報告書が出される予定です。調査グループの発足について、実験の実施をめぐる様々なアイデアや情報について、フィンランドで報道がなされており、そのうちの一つを、件の英字紙記者は誤読したようです。 現在のところ、小規模に拙速で実験を始めるよりも、しっかり準備をしてちゃんとした実験をしようという方向性となっており、都市、農村、さまざまな経済状況を反映した複数の候補地を選び、大規模な実験を行う可能性が高いようです。実験の開始は、現状では「2017年中」であり、期間は1~3年程度ではないかとみられています。給付額は月額800ユーロ(日本円で約10万6400円) という数字が漏れ聞こえています。 とはいえ何も具体的なことは決まっていません。また、市民を差別的に取り扱うことを禁じた憲法の条項に、給付実験が違反しているのではないかという懸念もあり、実験が行われること自体もまだ確定しておりません。(以上の情報は、フィンランドのベーシックインカム推進のためのNPO団体であるBIEN Finlandのオットー・レヒト代表、およびヨハンナ・ペルキア副代表によるものです) 仮にこうしたハードルを乗り越えて、実際に、給付実験が始まり、肯定的な結果が出たとして、その後に、実際の給付にいたるかどうかは、紆余曲折があるのではないかと思います。 第一に、政治的状況があります。現在の連立政権は三党連立ですが、中央党以外の2党(国民連合党と真のフィン人党)は、ベーシックインカムを支持する議員もいますが、党としては支持にいたっていません。中央党以外に、ベーシックインカムを支持している政党は、野党に、緑の党、左翼連合、海賊党があります(ただし海賊党は国会に議席なし)。全体として、国会議員の約55%がベーシックインカムに賛成なのですが、今みたように、与党と野党に分かれています。 第二に、ベーシックインカムの実際の給付を行うには、大きな税制改革が必要になります。冒頭で触れましたブラジルのように、法制化をクリアしても給付に至っていない事例もありますので、フィンランドの場合も、同様の自体に陥る可能性があります。 ただ、世論調査によるベーシックインカムの支持率は、この10年ほど、60~80%で推移しており、おそらくこの手の調査が行われている国のあいだでは最も高いと思います。導入にむけて現在のところ一番近い位置にあるのは間違いありません。