なぜF1角田裕毅は苦戦が予想されたスペインGPで今季3度目の入賞を果たせたのか…陣営の戦略とアスリートとしての成長
アルファタウリの角田裕毅(22)がF1第6戦スペインGPで10位入賞を果たした。今回の入賞で角田は今季3度目のポイントを獲得。合計11点はチームメートのピエール・ガスリー(6点)、4冠王者のセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン/4点)と2冠王者のフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ/4点)を従え、優勝経験のあるダニエル・リカルド(マクラーレン/11点)に並ぶ。 しかし、今回のスペインGPが始まる前、角田が所属するアルファタウリは、苦しい戦いが予想されていた。理由は、開幕から約2カ月が経過してヨーロッパで行われるスペインGPは、第2の開幕戦とも言われているため、ライバルチームがこぞって、マシンに新しいパーツを投入し、最新仕様にしてきたからだ。 一方、アルファタウリは前戦マイアミGPと同じ仕様のマシンをスペインGPに持ち込んできた。その理由を角田はこう説明する。 「現在のF1はバジェットキャップがあるため、開発にかけられる予算が限られています。ほかのチームがシーズン前半にどんどんアップグレードしていますが、いずれ開発費は尽きます。僕たちはできるだけ効果的にアップグレードしたほうがいいと考えているので、頻繁に小さなアップグレードを繰り返すよりも、しっかりと走行データを収集して、方向性を定めてから、シーズンに何回かに分けて、まとめてアップグレードする予定なんです」 したがって、苦戦は覚悟の上だった。大切なことはミスなく走行を続け、有益な走行データを収集すること。その上でチャンスがあれば、ライバルたちと競い合い、ポイントを目指すというのが角田とチームのスペインGPでの基本的な戦略だった。
だから、フリー走行でトップ10に入ることができない状況が続いても、角田に焦りはなかった。昨年までの角田だったら、なかなか改善しないマシンに苛立ち、無線で苦情を叫んでいたかもしれない。しかし、いまはやらなければならないことが明確に把握している。フリー走行3回目でチームメートのガスリーにトラブルが出て、まったく走れなかったという混乱があったチームを救ったのも角田の冷静な対応だった。 「チームメートが走れない分、予選に向けていいクルマづくりをしようと、できるだけ自分がデータを収集しました」 フリー走行3回目で得た走行データを元に、角田とチームは予選とレースに向けて、さらにセットアップを改良し、予選では難しいと思われたQ2進出を果たし、日曜日のレースを13番手からスタートする権利を得た。 しかし、スペインGPが行われるカタルーニャ・サーキットは、オーバーテイクが難しいコースで有名だ。また高速コーナーがあるため、コーナーリング中の横G(横方向への荷重)が大きく、体への負担も大きい。13番手からスタートする角田が入賞するには厳しいレースになることが予想された。 実際、日曜日のカタルーニャ・サーキットはレース開始時点での気温が36度の酷暑と、ドライバーたちにとって厳しいコンディションとなっていた。そんな中、角田はスタート直後に他車のアクシデントによりポジションを上げると、その後もペースを緩めることなく、ポイント争いを最後まで繰り広げていった。そして、残り10周でミック・シューマッハ(ハース)を抜き、ポイント圏内に突入。10位でフィニッシュした。 レース後、マシンを降りた多くのドライバーが疲労困憊した様子だった。角田もそのひとり。厳しいレースを戦い抜くことができたのは、オフシーズンから取り組んできたトレーニングの成果だった。 「オフシーズン中のほとんどの時間はトレーニングに費やしました。例えば、モータースポーツはコーナーでGがかかるので首のトレーニングは必須なんですが、昨年は正直、あまり真剣にやっていなかった。それで昨年はレース中に首の疲れを感じていたので、今年はそれを克服するために首に関しては集中してやりました。それ以外にも心拍系を鍛えたり、足の筋力を上げるなど、トレーナーに自分が住んでいるイタリアの家に泊まりに来てもらって毎日トレーニングしていました」(角田) こうした取り組みが、2年目の角田を逞しくしていた。 「マイアミも厳しかったんですが、戦っているポジションがマイアミよりも上で集中力が全然違っていたので、全体的に考えると今回が一番きつかったかなと思います」 F1ドライバーとしてだけでなく、アスリートとしても成長していたことが、今回のサバイバルレースに打ち勝ち、貴重な1点をもぎとることができた最大の理由だった。 (文責・尾張正博/モータージャーナリスト)