あまりに過酷な環境に、軽装備すぎる…日常世界との「気温差30度」なんて、あたりまえの富士山。「事故が連発」して当然のワケ
低酸素による疲労
高い山に行くほど空気が薄くなり、それに応じて酸素の量も少なくなることは、よく知られています。酸素は、食物中の栄養素を燃やしてエネルギーを生み出す働きをしています。したがってその欠乏度に応じて、運動や生活にも支障が出てきます。 簡単にいえば、高度が上がるほど運動はきつくなり、疲労もしやすくなります。また、頭痛や吐き気などをともなう高山病も起こってきます。 高山病には急性と慢性の2種類がありますが、慢性高山病はアンデスの高地住民などに起こるもので、日本人が経験するのは急性高山病のほうです。ここでは以下、急性高山病のことを単に高山病と呼ぶことにします。
貯めておけないから、補給を絶やせない
酸素・水・食物は生命維持に不可欠ですが、それぞれの補給が絶たれたときにどうなるかを表した、3―3―3という標語があります。私たちは、酸素がなければ3分、水がなければ3日間、食物がなければ3週間で死んでしまう、という意味です。酸素がないとわずか3分で死んでしまうのは、体内に酸素の貯蔵がほとんどできないためです。酸素は毒性の強い物質でもあるので、身体が必要とするぶんだけ、そのつど外界から取り入れざるを得ないのです。 酸素とはこのように、外界からの補給を一刻も絶やせない物質です。しかし頭でその重要性は理解できても、有難味がわかりにくいものです。目にも見えず、食物のようにお金で買って補給するわけでもないからです。 また下界では酸素が十分にあるため、呼吸器に問題を抱えている人でもなければ、問題が起こることはまずありません。これも有難味を感じにくい理由です。 ところが高い山に行くと一転して、酸素欠乏の影響が顕在化してきます。運動がきつくなったり、疲労しやすくなったり、高山病にかかったり、それが高じて命にもかかわったりするからです。 * * * 続いて、高山において、身体が環境にどう影響を受けるのか、生理学的な観点から検証するために、旧富士山測候所で行われた実験の結果をご覧にいれましょう。高山が平坦地とまったく違うことが、はっきりとわかります。 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術 安全に楽しく登山をするために、運動生理学の見地から、疲れにくい歩き方、栄養補給の方法、日常でのトレーニング方法、デジタル機器やIT機器の効果的な使い方などをわかりやすく解説。豊富なコラムで、楽しみながら知識が身につけられます!
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)