あまりに過酷な環境に、軽装備すぎる…日常世界との「気温差30度」なんて、あたりまえの富士山。「事故が連発」して当然のワケ
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】富士山で突然死も不自然ではない…低酸素の研究で判明した「過酷な環境」 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回は、いよいよ近づいてきた富士山の山開きにちなんで、高山に登るテクニックと注意すべき点を運動生理学観点から見ていきます。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
夏の富士登山で起こっている低体温症の事故
以前の記事で、7月にトムラウシ山で起こった、低体温症で8名が死亡した遭難をご紹介しましたが、こうした事例は、きわめて稀まれにしか起こらない気象条件にたまたま遭遇して、運悪く起こったものかといえば、そうではないのです。 なぜならば、このような荒天は北海道に限らず、本州の高山でも一夏に何度かは起こっているからです。たとえば、夏の富士登山を考えてみます。富士山は3000mをはるかに超える独立峰ですから、気温は低く、風も強いことが多いのです。低気圧が来れば、しばしば暴風雨にもなります。 富士山頂の8月の気温は、1日の平均気温で6度くらい、最低気温は3度くらいです。最大風速が15m以上(ほぼ台風なみ)を記録する日は、平均で9日間あります。トムラウシ山での遭難時の気象条件が、決して珍しいものではないことがわかるでしょう。 いっぽうで、富士山に登る人のことを考えてみます。一夏に20万人以上もの人が訪れますが、その中には初心者、運動不足で体力の弱い人、子ども、高齢者なども多くいます。東京や大阪といった大都市から出かけていくとすれば、日中は真夏日(30度以上)、夜でも熱帯夜(25度以上)が続く時季に行くのですから、寒さへの抵抗力は弱まっています。 しかも、不完全な雨具、不十分な防寒具、乏しい食料や水、オーバーペースで疲労しやすい歩き方をしている人など、体力面でも行動適応の面でも心許ない人をたくさん見かけます。気温の下がる夜間の登山も、当たり前のように行われています。このようなことから、夏の富士山でも低体温症の事故はしばしば起こっているのです。