インドネシアTPP参加の意義:自由貿易体制の重要性を再認識する契機に
EUとのFTAとTPPの双方に加わっている近隣国のシンガポールやベトナムの例をみれば、インドネシアがTPPを次の目標とするのは自然な流れである。米中どちらともつながりつつ、同時にその他世界とも経済関係を深めていきたい、そういう意図が見てとれる。アイルランガ経済担当調整相はラテンアメリカなど、これまで経済の結びつきが薄かった地域との関係強化に強い関心を抱いており、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)(※1) ではTPP加盟の経済効果分析のお手伝いもさせていただいた。 (※1) 編集部注:東アジアの経済統合に関わる研究、政策提言を行う国際機関。本部ジャカルタ。筆者は同センターのシニアリサーチフェローを務める。
対中関係とのバランス保つ思惑も
過去10年、インドネシアはASEAN諸国の中でも特に中国との結びつきを強めている国である。2023年において中国がインドネシアの輸出入に占める比率はそれぞれ25%、28%まで上昇し、一方、日米欧は合計しても25%、20%にとどまっている。対内直接投資(実行ベース)は年ごとの変動が大きいが、23年については中国が15%、日米欧合計が22%となっている(以上JETROによる)。インドネシアとしては、中国の影響力が強まる中、西側諸国やその他世界との経済関係をさらに強化してバランスを保ちたいとの思惑もある。 インドネシアのTPP加盟は日本としても朗報である。特に期待されるのは投資環境の改善である。このところインドネシアは、ニッケルをはじめとする資源からの下流化(サプライチェーンの川下を含めた高付加価値化のこと。down-streaming)戦略に本腰を入れるようになっており、そこに深く関与している中国や韓国の存在感が増している。一方で、日本が進めてきた自動車など機械産業中心の開発戦略はやや影が薄くなっている。日本は長年にわたってジャカルタ首都圏の産業集積形成や都市アメニティの充実に協力してきた。TPP加盟がかなうのであれば、機械産業の国際的生産ネットワークの重要性に再び光を当てることができるかもしれない。