インドネシアTPP参加の意義:自由貿易体制の重要性を再認識する契機に
木村 福成
地政学的緊張の世界的高まりで、自由貿易体制を推進する潮流は危機にある。筆者は、インドネシアの9月の環太平洋経済連携協定(TPP)加盟申請について、「グローバルサウスに国際貿易秩序の重要性を再認識してもらう契機になり得る」と注目する。
米中対立が深まる中、積極的に中立を保とうとする東南アジア諸国連合(ASEAN)の動きが関心を集めている。中でもインドネシアは、人口でも国内総生産(GDP)でもASEAN全体の半分弱を占める大国で、G20の一角を占めながらもインドなどとは異なる動きを見せている。本年(2024年)9月、正式にTPP加盟を申請した。
先進国入り目指し、FTAs網の拡大図る
この地政学的緊張の時代になぜ相変わらず自由貿易協定(FTAs)なのか、と思われる方もおられるかもしれない。しかし、国の数で言えば世界のほとんどはグローバルサウスの国々であり、そのうちのかなりの国は、引き続きより自由な貿易・投資を促進しグローバリゼーションの力を利用して経済発展を加速したいと考えている。インドネシアも2045年をめどに先進国入りしたいとの強い願望を抱いている。その基準を提示する経済協力開発機構(OECD)への加盟交渉も、本年(2024年)2月に始まっている。 インドネシアは、ASEAN域外国とのFTAs網の拡大を粛々と進めてきた。表はこれまでのインドネシアのFTAs締結状況を、ASEAN加盟国としての協定を除いた形で示したものである。インドネシアはこの5年ほどの間にオーストラリアおよび韓国と既存のASEAN単位の自由化約束を深掘りする二国間FTAsを結び、また2008年に発効済みの日本との経済連携協定についても24年8月に改正議定書の署名に至った。アジア域外国では、チリとの協定、欧州自由貿易連合(EFTA)との協定が締結された。さらに現在もいくつかのFTAs交渉が進行中であり、特に欧州連合(EU)、カナダとの交渉では妥結のためにクリアすべき問題も絞られつつあると報じられている。