迷子のイヌはなぜ遠く離れた家に帰れるのか、4500km戻った例も、専門家に聞いてみた
「追跡」派と「偵察」派
渡り鳥やサケ、クジラなど、地球の磁場(地磁気)を利用することが知られている動物はほんのわずかであり、生物が磁場を感知する「磁気受容」についてはまだよくわかっていない。 イヌもまた、この不可解な能力を持っている可能性がある。2020年に学術誌「Ecology」に掲載された論文では、チェコ共和国の研究者が27匹の狩猟犬を対象に3年間にわたる実験をおこなった。 600回以上の野外実験で、研究者たちはイヌにGPS追跡装置とカメラを装着し、見知らぬ森林地帯を飼い主としばらく歩き回ってもらってから、自由に獲物を探させた。イヌが十分離れた後、飼い主がイヌを呼び戻したときに、研究者たちはイヌがどのように戻ってくるかを追跡した。 実験に参加したイヌの約60%は、嗅覚を用いて自分が来た跡をたどり、飼い主の元へ戻った。しかし、30%は別の戦略を取った。 これらのイヌは飼い主がいる位置に関係なく、まず森の南北軸に沿って短い距離を走った。見慣れた目印がなかったため、地球の磁場によって進む方向を決めていたのだろう。 研究者はこの行動を「コンパスラン」、新しいルートをとる戦略を「偵察」と呼び、実験に参加したイヌが嗅覚だけを頼りにした場合よりもはるかに早く飼い主を見つけるのに役立ったと指摘した。この研究の著者らは、イヌは迷子になったとき、自分のメンタルマップと磁場を組み合わせて、進む方向を決めているかもしれないと結論づけた。 「イヌがナビゲーションに磁気の手掛かりを用いたという決定的な証拠はまだ見つかっていませんが、これが最も妥当な説明です」と、研究の共著者で、ドイツ、デュースブルク・エッセン大学の動物学名誉教授であるハイネック・ブルダ氏は言う。 イヌはこうした感覚的な方法を組み合わせることもできる。嗅覚に頼るほうが偵察戦略よりも時間はかかるが、より安全な場合もある。「イヌは、私たちや他の動物がよく似た問題を解決する場合と同じように、異なる戦略を用いたり、切り替えたりすることができるのです」とブルダ氏は言う。