アシックス担当者とハトラ長見佳祐に聞く、日本代表公式ウェア製作の裏側
パブリックデザインにおいて重要なものとは?
──開発期間を振り返ってみてお互いの印象に変化はありましたか? 長見:アシックスは、中高生の頃の体育館履きから通じる日本の現風景のような存在でありながら、近年の「キコ・コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」とのプロジェクトではファッションの最前線にまでリーチしていて、その硬軟織り交ぜた動きには類を見ないものがあるなという印象でした。 また、アシックスのスポーツ工学研究所で、デジタルシミュレーションを含めたさまざまなことを科学的に検証しているのを拝見して、デジタルを軸にデザインするハトラと根っこにある部分は通じていると感じました。実際に作っていく中でも、デジタルの知見をお借りしてフィードバックを重ねることで、いいシナジーが生み出せたと思っています。 大堀:共同作業を通して、ファッション業界の第一線にいる長見さんならではのこだわりと、仕事に対する熱意を感じました。長見さんには、プロダクトに関してオタク気質なところがあって。僕が持っているスポーツアパレルに関するデザイン、技術的な知見や今までの経験と、長見さんの目線を織り交ぜて一緒にものづくりができて、面白かったですね。 ──ファッション畑の長見さんとスポーツ畑のアシックスが一緒になることで化学反応が生まれた? 大堀:我々のように専門分野でものづくりを続けていると、「これはこうあるべし」といった既成概念に囚われてしまうところがあるんですが、長見さんのデザインには、僕からは全く出てこないような発想がありましたし、それこそが一緒にやる意味だと感じています。パフォーマンスを追求すると、どうしても「無」に近づいてしまうことがあるじゃないですか。そうではなくて、ファッションが持つ不必要なものをいかに必要性のあるようなものにしていくか。それが課題でしたし、結果的にデザインにうまく落とし込むことができたと思っています。 ──昨今、パブリックデザインにはSNSを中心に多様な意見が飛び交います。 長見:確かに難しさも怖さもありました。だからこそ、選手がいかに種目に集中できるか、それが全てだと考えてデザインしたんです。 大堀:アシックスというブランドを背負っている立場上、世間の声はどうしても気になってしまいます。ただ、長見さんの言う通り、僕らにできることは機能を通じて選手への快適性やパフォーマンスを提供すること。その軸からはブレないよう、長見さんにご協力いただいた何百という数のデザインを精査して、この1着を作り上げました。選手は表彰式の際、着用ウェアを自由に選ぶことはできないわけですから、僕らとしては着用する選手やスタッフが不快に感じないよう、デザインをはじめ、機能面やパターンを追求しました。その結果、選手たちから良いフィードバックをいただけているのが何よりだなと思っていますし、そのフィードバックをもとにまた新たな製品を開発していければと考えています。 (聞き手:張替美希)