アシックス担当者とハトラ長見佳祐に聞く、日本代表公式ウェア製作の裏側
──生地のカラーリングはグラデーションになっていますが、モノによって異なるのでしょうか? 大堀:はい。意識して見ていただくとわかるんですが、1人ずつ違うグラデーションになっていて、全く同じデザインは一つとして存在しません。それが、今回のデザインテーマの一つである「ダイバーシティ」に通じる点です。「日本という1つのチームだけど、1人1人個性がある」ことを表現したかったんです。 長見:もちろん、チーム全体としてのまとまりは重要ですが、選手1人1人にそれぞれの思いや、オリンピック出場にたどり着くまでのストーリーがあるので、それを1つの形で覆ってしまわないようなデザインがしたい、ということは当初から考えていました。選手それぞれを引き立てるデザインをという想いで、1つとして同じものはないグラデーションデザインを採用しました。 長見:加えて、背面裾のリブをジャカード組織でグラデーションにしているのもこだわりの一つです。選手が着用するブラックのパンツに馴染むよう、グラデーションにすることで、ウエストやヒップの断面をなくして“1つの身体”としての流れをデザインに取り入れました。 ──シルエットが全体的にゆったりとしているのも、ダイバーシティというテーマの表れでしょうか。 長見:ポディウムジャケットは、選手だけではなくコーチなどのスタッフも着るので、多様な体系をカバーできるシルエットであることは必須条件でした。 大堀:今回のジャケットは、前回に比べるとかなりゆったりしています。「アスリートフィット」と呼ばれる定番的なスポーツウェアのフィットは、体に沿った綺麗なラインが出るんですが、中には「ピタッとしたシルエットが嫌」という意見も存在します。ゆったりしているけど動きやすく、だらしなく見えないシルエットに調整した結果、体のラインを拾いすぎないシルエットに仕上がりました。そこはハトラの強みであるパターンメイキングの技術があってこそだと思います。実際、堀米選手(スケボー男子ストリートで金メダルを獲得した堀米雄斗)が表彰式で着ているのを見たら、すごくスタイリッシュで。「(このシルエットにして)良かったな」と感じましたね。 ──ゴールドの刺繍が気になります。 大堀:この刺繍は、本来はポケットが落ちないよう、留めるために必要なステッチだったのですが、開発を進めていくうちにそのステッチが必要なくなって。せっかくなので、デザインとして残すことにしました。 長見:着丈が長い分、この位置にラインがあることでウエストマークにもなるので、バランスを保つために採用されました。ゴールドの糸には「常に高みを目指して欲しい」という意味が込められています。 大堀:このデザインを受けて、フロントファスナーもゴールドになったという経緯があります。