長谷部誠が最後まで貫いたプロフェッショナルな姿勢「サッカーはそんなにうまくいくもんじゃない」
5月18日、ドイツ・ブンデスリーガ最終節となったフランクフルトvsライプツィヒ戦。引退を決意した長谷部誠がラストマッチのピッチに立ったのは後半アディショナルタイムに入ってからだった。それでもサッカーを知り尽くした男は、若手選手に積極的に声をかけ、自らのプロサッカー選手としての役割をまっとうした。最後の最後までブレることのない、サッカー人生。40歳を迎え、出場機会が限られた今季、長谷部は若手選手に何を伝え、どのような引退の光景を思い描いていたのか? (文=中野吉之伴、写真=アフロ)
「サッカーはそんなにうまくいくもんじゃない」
元日本代表キャプテンの長谷部誠がその長い現役生活に別れを告げた。ブンデスリーガ最終節のライプツィヒ戦では、同じく引退する盟友セバスティアン・ローデとともに試合終了間際から途中出場。試合後には壮大なセレモニーが開かれ、クラブからは額に飾られた記念ユニフォームと永久会員証が送られた。 引退表明をしてから1カ月。本人が「この日に向けて準備してきた」と振り返るように、最後の舞台というところへ気持ちが引っ張られるのが普通なのではないかと思われる。本心では少しでも長い時間ピッチに立ちたかっただろう。 だが長谷部は最後のその瞬間までプロフェッショナルな選手だった。 この日が優勝にもヨーロッパのカップ戦出場権にも残留にも関与しない、いわゆる“消化試合”だったら、有無を言わさず2人の功労者を可能な限り長くピッチに出すべきだろう。ただチームが置かれた状況は思っていたよりも複雑なものであった。 最終節を前にフランクフルトが6位で、7位ホッフェンハイムとの勝ち点差は3で得失点差も3。もしフランクフルトがライプツィヒに負けて、他会場でホッフェンハイムがバイエルンに勝利をしたら、順位が入れ替わる可能性が高い。 「勝っても負けても4位確定のライプツィヒが相手だから負けはしないだろう」とか、「バイエルンがそう簡単に負けないでしょ」という楽観的な声だってあった。だが長谷部はサッカーでは何が起こるかわからないことを誰よりもよく知っている。 「僕自身は前節が終わったとき、チームがすごい喜んで、お祝いムードになっているのを見て、全然まだ(UEFAヨーロッパリーグ出場権枠が)決まってないし、なんでこんなに喜んでいるんだろうなって、正直思っていました。サッカーをこれだけ長くやってきた経験上、そんなに物事がうまくいくことはないってわかってる部分がある。もしかしたら、もっと試合に出られる時間を長くできたかもしれないですけど、でも僕はサッカーはそんなにうまくいくもんじゃないと、この世界でこれだけ長く生きてきて感じている部分がありました」 長谷部の言葉通り、最終節で7位ホッフェンハイムは4-2でバイエルンを下し、フランクフルトがライプツィヒと2-2で引き分けたため、なんとかギリギリのところで順位の入れ替わりは防いだが、勝ち点差1、得失点差1という紙一重の最終順位となった。