経営学でわかる、効率化の「本当の意味」
重要となる「時間」の概念
一連の話は企業あるいは産業レベルの話題だが、これらはすべて個人の課題に応用できる。もしあなたがオフィスで働くホワイトカラーであれば、こうした状態が放置されているのは、大きなチャンスといえる。多くの同僚が効率の悪い状況で仕事をしているのであれば、自ら作業の標準化を行うことによってより高い成果を上げられる可能性が見えてくるからだ。 では具体的に仕事のどこに着目すれば、標準化=効率化を実現できるのだろうか。 テイラーが最初に着目したのは「時間」である。どのような作業にどの程度の時間がかかるのか徹底的に調べ、最適な時間配分を考えることで初期の理論が出来上がった。同じようにオフィスでの仕事にも時間の感覚を強く持つことが重要といえるだろう。 当たり前のことだが、時間は1日に24時間しかない。会社での仕事ということになると原則は8時間である。8時間という決められた時間の中で、どれだけ成果を上げられるかがカギを握るわけだが、ここで重要となってくるのが「時間を作り出す」という概念である。 時間というのは、与えられた時間を有効活用するだけでは不十分である。自ら積極的に作り出していかなければ、意味のある時間を確保することはできない。そして、時間を「作る」ための方法は基本的に3つしかない。 ひとつは、睡眠や食事、遊びなど仕事以外の時間を削減するという方法、もうひとつは、他人が奪っていく時間を最小限に抑える方法、もうひとつは、時間の組み合わせを工夫するという方法である。 他の時間を削減する方法は、やり方としてはシンプルだが、思った程の効果が得られないことは多くの人が実感しているはずだ。睡眠時間や遊び時間を多少犠牲にしたところで、それはたかが知れている。無理して睡眠時間を削減しても、体調を悪くするといった弊害も出てくることになるだろう。
時間はまとまっていてこそ価値がある
これに対して他人が奪っていく時間をコントロールすることは効果的な手法といってよい。上司に書類を提出したにもかかわらず、何度も訂正させられ、最終的に許可されるまでに時間がかかったというケースでは、上司と書類をやり取りする時間は、基本的には何も生み出していない。 つまり、まったくのムダな時間であり、その部下は無能な上司に多くの時間を奪われていると解釈できる。チリも積もればと言われるが、こうした時間は年間では相当の量になっているはずだ。 仕事が上手な人は、上司に書類を出す最適なタイミングを知ることで、奪われる時間を最小限にとどめている。書類というのはギリギリに出すと相手が不機嫌になることも多いが、かといって何でも早く出せばよいというものではない。早く出せば、無意味に何度も修正させられるに決まっている。 上司が抱えている他の仕事をよく観察し、上司が書類をチェックする時間はあるものの、その後にいくつかのタスクがあり、無制限には時間をかけられないタイミングを見計らって書類を出せば、上司が修正に費やす時間は最小限で済む。結果として、自分が確保できる時間は大幅に拡大することになるだろう。どのタイミングで書類を提出するのかという点も実は標準化の重要なポイントなのだ。 タイミングに加えて、時間の組み合わせも重要である。10分の空き時間を6回作るのと、60分の空き時間を1回作るのとではどちらがより生産的な時間といえるだろうか。考えるまでもなく答えは後者である。 60分あれば、かなりの分量の資料を読むことができるし、報告書も仕上げることもできるだろう。場合によっては専門分野に関する勉強を行うことも可能となる。同じ時間でも、大きくまとまっていることによって、その利便性は何倍にも向上する。 このようにして、オフィスでの時間の配分を標準化してくことで、自らの時間が最大になるよう仕事を管理することが重要である。この視点を持って毎日仕事をした人と、そうでない人との間には、1年後には埋めようのない差がついているはずだ。
執筆:経済評論家 加谷 珪一