<感恩報謝・’22センバツ星稜>/1 先輩から託された夢 /石川
2021年9月27日にあった第145回北信越地区高校野球県大会決勝、小松大谷戦の初回。星稜の先頭打者、永井士航選手(2年)は「日本一 おれらの分まで」と書き込まれたバッティンググローブを着けて打席に入った。「積極的にいけば結果もついてくる」。初球を鋭く振り抜くと、白球はレフトスタンドへ吸い込まれた。 さらに1点を追う三回には、同点二塁打を放ってチームを勢いづかせる。その後も斉賀壱成選手(1年)、荒木陽翔選手(2年)の適時打で打線がつながり、一挙4点。小松大谷も追い上げるが、最後の相手打者の飛球が中堅の若狭遼之助選手(2年)のグラブに収まり、秋季では5年連続21回目の優勝を果たした。 永井選手のグローブは、同年夏の石川大会で3番打者に座った黒川怜遠さん(3年)から譲り受けたものだ。黒川さんは永井選手に技術面から精神面まで多くの助言を送ってきた。「野球のことをたくさん教えてもらった。あの人に出会えたことは大きかった」と感謝する。 石川大会で永井選手はそれまで1番打者に入っていた黒川さんに代わって起用されることになる。黒川さんは永井選手に「1番打者はチームを勢いづけなければならない。打席での思い切りが大切だ」と先頭打者の心得を説いてくれた。尊敬する先輩と甲子園への階段を上っていったが、準々決勝まで進んだところで複数の野球部員が新型コロナウイルスに感染。大会出場を辞退せざるを得なくなり、3年生の夏は最後まで戦わずして幕を下ろすことになった。 「次はお前らだからな。頑張ってくれよ」。辞退が決まった日、部員たちの嗚咽(おえつ)が響く星稜高の室内練習場で、1、2年生は3年生たちから甲子園出場の夢を託された。それから2カ月。新チームは秋の県大会を勝ち進み、先輩たちと同じく県1位校として北信越大会に駒を進めた。 大事な試合でチームに貢献した永井選手は黒川さんから学んだ心得をかみしめた。試合後「初球から決めていくと自然に思えた。黒川さんにもらってきた助言が結果につながった」と語り、北信越大会への闘志を見せた。「先輩たちの思いを背負った僕たちは甲子園に行かなければならないんです」 × × 1月28日、星稜が2年ぶり15回目のセンバツ出場を決めた。出場を決めていた20年センバツの中止や昨夏の石川大会出場辞退などコロナ禍に翻弄(ほんろう)された上級生の思いを継ぎ、甲子園出場をつかみ取った選手たち。北信越大会終了後の11月、「感謝の語源になった言葉。いろいろな人への感謝の気持ちを忘れずにプレーしたい」(佐々木優太主将)との思いから「感恩報謝」をチームのスローガンに掲げた。野球で周囲の人々への感謝を示そうと意気込む星稜ナインのこれまでの軌跡を振り返る。