コロナ禍でも右肩上がりの外国籍町民。約50カ国から人が集まる神奈川県央部の「異国」愛川町
「なんとなくベトナムに似ているんです」
その顕著な例がアジア各国の寺院の建立かもしれない。 町の中西部を流れる中津川をさかのぼっていくと、首都圏最大級であり神奈川県の水がめの役割を果たす宮ケ瀬ダムに至るが、その川辺にはカンボジア文化センターが、さらに上流にはベトナム寺院がある。それぞれの国ごとの宗教施設であり、自国と日本との文化交流拠点でもある。 毎週末には多くの在留外国人が訪れ、祈りを捧げながら異国での生活を支援し合う、情報交換や憩いの場としても機能する。 「初めて日本に来る人も多い。知らない土地は不安だから、こういう場所があれば安心」 そう笑うのはベトナム寺院の僧侶ジオイ・バオさんだ。タイに留学して仏教を学び、ワシントンやシドニーなどを巡ったのち2018年に来日した。
2015年に建立された寺院は、日本のベトナム寺院のなかでも最大級の規模。相模原、厚木、海老名、伊勢原、秦野など近隣の市町村をはじめ、県外からも週末ごとにベトナム人が集う。2019年には愛川町へ移住したベトナム人が100人を超えた。寺院の創始者は、なぜ愛川町を選んだのか。バオさんは言う。 「土地が安くて、川や山などの自然がいっぱいだからと聞いています。なんとなくベトナムに似ているんです」 他にも多くの外国人コミュニティーがあることも、心強いという。
「住民としてのマナーや、日本の習慣としてやってはいけないことなどの話を同じ立場の外国人住民に聞けるのはとてもありがたいですね。多くの国の人にベトナムの文化を知ってもらえるいい機会になっているとも思います。愛川町の人、みんな親切です。近所の人も優しい。困ったこと? ないです。今後は日本の仏教も学びながら文化を知っていきたいですね」 口コミという、地味ながらも確実なツールは国籍を問わず広がっていった。 一方で外国籍住民が増えた愛川町には、今後20年30年先を見据えたとき、文化的社会的に進歩した自治体に成長するための課題もある。例えば、結婚や出産を経て、2世3世として暮らす住民が増えてきた。日本生まれの外国人である、彼らの言語教育がまずは課題に挙がる。生まれた時から日本語に親しみ、生活に必要な口語は十分に理解するものの、自宅では母国語を話す家庭がほとんどだからだ。