一箱5000円のジャガイモも買ってしのいだ日々 餓死寸前の高齢者も…コロナ禍・ロックダウンされた上海で、日本人主婦が見たものとは
食料が足りなくなって、一箱5000円のジャガイモを買う
--3~4日ぶんの食料しか備蓄していなかった人はどうしたんでしょう。 黒崎 ロックダウンも10日を経過したあたりで配給が来るようになりました。買物にはもちろん行けないし、店舗のデリバリースタッフも自宅に軟禁状態にされていたのですからね。とはいえ配給は、頻繁には来てくれませんでした。10日に一度くらいだったと思います。注文? できるわけないです。チンゲン菜がダンボールに1箱とか、鶏の羽根をむしったやつがまるごと一羽とか、日本人には扱いづらいものが一方的に送られてくるだけ。それでも、あるだけとてもありがたいという感じで受け取っておりました。 で、やっぱり嫌な話というのはあって、みんなSNSやグループチャットでつながっていますからね、「隣のアパートには配給が来たのにこっちにはこない」みたいな情報が頻繁に共有されるんです。後から知ったことですが、中国共産党の幹部退職者が多く住んでいる地域では配給は頻繁に行なわれていて、だから食糧に困ることはなかったようです。私たち家族のような庶民的なアパートだとそうもいかない。食糧が足りなくなると、みな精神的余裕がなくなるため、SNS上の書き込みもかなり荒れていたように思います。 あとは外国の政府関係者とか、報道関係者とかが住んでいる地域にも頻繁に配給が行ったという話も聞きました。だからね、これはロックダウン中にTVで見たんですけれど、そういう「上級」の人たちのところに、たぶん特別な許可を得たカメラクルーが入って段ボール箱を映して「配給の食料がこんなに少なくなりました」と報じる、なんてのがあった。でもそれは私の目からすれば質量ともにすばらしいもので、「なーにが『少なくなりました』だよ。うちよりずっといいじゃねえか」と毒づいたことでした。 嫌な話はまだあります。配給で届いた食料を住民に差配する役目の人がこっそり高値で横流ししたとかね。これは噂話としてではなく、報道で目にしましたから本当にあったことでしょう。 ロックダウンから1カ月もすると、特にインフラ系の仕事をしている人には働いてもらわないとしょうがないということで、全員ではありませんが外出許可が出たんです。すると目端の効く人なんかはどこからか食料品を仕入れてきて高値で売る、なんてことをする。わが家ですか? 買いましたよそういうのも。いくらくらいだったかな…、小ぶりの段ボール箱にジャガイモと玉ネギ、ニンジンなどが入って送料込みで日本円で5000円とか、そんな感じでした。選り好みができる状況ではなかったので、とりあえず食糧が手に入りそうという情報があれば値段関係なくすぐにオーダーしてました。 黒崎 実はインフラ系の人たちに外出許可が出るのと期を同じくして、市内のスーパーマーケットがデリバリーを開始したのです。配達人員が確保できたってことなんでしょう。でも、買えたためしはなかったですね。「朝6時、どこそこのスーパーがネットで予約注文を受けつける」なんて情報が流れてくるんです。私は当日の朝5時55分にはPCの前でスタンバイするのですが、もう一瞬で売り切れてしまう。人気アーティストのチケット争奪戦みたいなことになっていました。 日本でも戦中戦後の混乱時は、お金があっても食料が買えない・買えたとしても非常に高いという期間が続いたと承知していますが、まさかそんなことを21世紀の、経済発展著しい中国の、それも一番の商都上海で体験するはめになろうとは。あれはとても心の荒むものです。台所の食材を集めて、(これでどうやって、家族四人の食事をしのごうか)と頭を悩ますのは大変なストレスでした。あまりにも食べるものがないので、夜中にこっそり塀を越えて日本の領事館に駆け込んで助けを求めようと思ったこともあるくらいです。 なんだかんだと流通が回復してきたのは5月の上旬くらいだったでしょうか。アパートの住人同士でまとめ買いをするようになって食材の供給はほぼ安定し、価格も依然高値ではあるのだけど、まあ許容範囲内になってきた。ただしこの時点ではまだ上海のロックダウンは解除されていませんし、ゼロコロナ政策も続いていました。