クルマの“ミッション戦国時代” 生き残るのはどれだ?
《DCT》
さて、次はDCT(デュアルクラッチトランスミッション)だ。DCTは2組のギヤセットを持ち、奇数段と偶数段のギヤに分かれている。奇数段(例えば1速)を使っている間に偶数段(例えば2速)のギヤはすでに噛み合わせが終了して準備ができているから、クラッチの奇数段側を切り、偶数段側を接続すれば変速できてしまう。最速の変速を可能にしているのはこの仕組みのおかげだ。 このギヤセットを切り替えるクラッチの方式は「乾式(かんしき)」のものと「湿式(しつしき)」のものがある。乾式のメリットはクラッチを切っている間、引きずり抵抗がないので効率が高い点にある。一方、湿式は複数のクラッチ板がドライブ側、ドリブン側交互に油中に浸かっている状態なので、油の粘性分だけ引きずりが発生する。ただし、そのおかげで変速時の洗練性が優れる部分もあり、現時点では一概にどちらが優秀とは言えない。 ギヤが入っている状態ではマニュアルミッション同様に、滑り感のないダイレクトなフィールがあることが長所だが、短所は発進変速ともに洗練度がCVTやトルコンステップATに及ばないない点と、前述の様に重さと部品点数の多さだ。 部品点数が多く、機構も複雑なため、メンテナンス面で途上国向きではない。
《AMT》
AMTとは、マニュアルトランスミッションのクラッチとシフトレバー操作を油圧や空気圧のアクチュエーターに代行させるロボット変速で、機構そのものは原則的にマニュアルと同じものだ。発進と変速のマナーについてはまだ洗練とは程遠く、変速速度も速いとは言い難いが、効率、コスト、重量に加えメンテナンス性も極めて優秀だ。 現在途上国で主流のマニュアルトランスミッションは、クルマの普及率が上がるにつれて自動化の要求にさらされるのはこれまでの先進国のモータリゼーションを見ていれば間違いない。やがて経済力と整備インフラが付いて来ればトルコンステップATということになるのかもしれないが、過渡期においてはインフラ任せの要因を排除できるAMTは極めて戦略的な商品になりうる。 インフラの整備となれば10年単位の時間がかかるだろうが、現在苦手としている発進と変速のマナーの改善なら自社の技術的進歩で達成が可能である。しかも、もしそれが可能になれば、先進国でもトルコンステップATのマーケットを食うことができる。スズキはそこに目をつけ、すでにインドでAMT(スズキの呼称ではAGS)の生産を始めている。 現在のロボット変速AMTは古くはいすゞのNAVi5やその建設機械/トラック版のNAVi6など30年も前からあったが、前述の欠点から普及せず、いすゞ自身もトルコンステップATに回帰した経緯があった。以来30年を経て、その仇をスズキが討とうとしているところは面白い。