クルマの“ミッション戦国時代” 生き残るのはどれだ?
《CVT》
CVTはそのほとんどが発進装置としてトルコンを使う。なのでトルコンCVTと言っても良い。当然、発進マナーには優れている。まだまだ少数派だが、発進装置にモーターを使う方法もあるし、電子制御でクラッチを用いる場合もあるが、いずれも数的には例外に近い。 CVTの最も本質的な美点はエンジン回転数と車速の関係の自由さだ。そして変速マナーの洗練度に関しては理想的とも言える。 CVTはV型の溝を持つ2組のプーリーの間にベルトを掛け、油圧で溝幅を変えることでプーリーセットの有効径を変えて変速を行う仕組みだ。ギヤレシオを無段階に変えられるので、エンジン回転をどう使うかはプログラム次第である。一番馬力の出ている回転数を保持したまま加速することもできるし、一番燃費効率が良い回転数を保持したまま加速することもできる。 理論的には、前編で述べた船舶や飛行機のケース同様、エンジンを一定速度で回したまま速度を変えることができるため、CVTの変速機としてのポテンシャルは極めて高い。クルマの動力源として内燃機関が宿命的に持っている回転数による効率のムラを消し、欠点をカバーできる可能性があるのだ。 しかし、現在のクルマにはCVTに直接速度を指示するインターフェースが存在しない。あるのは本来エンジン出力調整用のアクセルべダルだけだ。だからコンピューターは、ドライバーのペダルの踏み方から、エンジンに対する要望と変速に対する要望を読み解かねばならない。これがドライバーから「違和感がある」と言われる原因になっており、狭義の変速マナーがいくら良くても、ドライバーが思ってもいない変速をするマナーの悪さで全て帳消しになってしまう。トルコンステップATでも類似の傾向があるが、「一段上げるか、一段下げるか」を選択するだけのトルコンステップATではドライバーはその癖を予想しやすい分、短所として受け止めようがある。ところがCVTは自在性が高い分、操作のニュアンス解析が難しく、ドライバーにとっても違和感が大きいのだ。 せめて「パワー」から「エコ」まで無段階操作できるインターフェースが何かあるべきだと思う。かつてマニュアルミッションのシフトノブはその機能をしていたのだから。このインターフェースがきちんと確立されない限りCVTの天与のポテンシャルは活かしきれない。 このギヤ比操作用インターフェースが欠落しているため、エンジン回転数アップの指示を出しているのに、エンジン回転数が変わらないまま加速するというような違和感がどうしても残る。簡単ではないかもしれないが、変速比指示の仕組みが上手く作れれば、ドライバーが積極的にギヤレシオだけを変えて速度調整することもでき、この違和感はなくなるはずだ。こうした問題はエンジン回転と速度の関係性が自由であるCVTのメリットと表裏の関係にある欠点だ。 CVTのもう一つの問題点は、ベルトの保持に作動中ずっと油圧が必要なことで、これがとくに速度が上がるほど効率の悪化を招いている。ただし改良は進んでいる。以前書いたCVTの記事の中では煩雑になるので割愛したが、「押し側」でしか使えなかったベルトをチェーンに代え「引っ張り側」で動力伝達できる様にしたCVTがある。これによりプーリーとベルト間の摩擦力保持に必要な油圧は下がっているはずだが、構造的に重いベルトやチェーンにかかる遠心力に対抗して、適正にテンションをかけながら保持するための油圧の問題は解決していないので効果は限定的だろう。 CVTには、さらにレシオカバレッジが低いという問題点があった。これについては副変速機を使うことで改善が見られた。ただし、それでもレシオカバレッジが最も高いもので従来の6倍代から7.5倍程度に改善した程度で、多段化の進んだトルコンステップATの9.81とは大きな差がある。しかし、一方でそもそも段がないCVTはレシオカバレッジの中では自由なギヤ比を選ぶことができ、トルコンステップATがいくら多段化しようがこの点では勝負にならない。小排気量ターボのような効率の高い回転数が限られ、かつターボの回転を落としたくないエンジンを上手くつかうことには最適な一面もある。 最後にメインテナンス上の問題には触れておかなくてはならない。これは自動車メーカーの世界戦略に大きな影響を与えるからだ。世界、特に途上国での保守整備の面では、これまで度々書いてきたようにトルコンステップATと並んで、CVTは非常に不利だ。修理や整備にクリーンルームのような設備と高い技術が求められるからだ。 全体的に見渡してみると、CVTは高速での使用を重視せず、先進国で都市内交通を担うようなクルマにはメリットはあると思うが、オールマイティな変速機として発展するためにはもう一段階のブレークスルーが必要だと思う。