パリ五輪のサーフィン会場のタヒチで起きた、ぜひとも知っておきたいある「騒動」
審判用タワーはなぜサンゴを傷つけるのか
元からあったタワーを残すことを求める請願書には、25万7500人以上の署名が集まった。署名を募ったウェブサイトは、「タワーの建設プロジェクトは、生態系への影響を調査することなく、強引に進められてきた」として、サンゴに開ける穴がもたらす「悲惨な結末」について警告している。 タワーが落とす影さえも、被害をもたらす。なぜなら「サンゴ礁は光合成に大きく依存しているからです」とドゥアルテ氏は言う。 サンゴ礁はサーファーの間で評判の高い波を作るうえでも貢献している。チョープーの波は、サンゴ礁で砕けて生まれるからだ。 請願書を支持する動画において、プロサーファーのマタヒ・ドローレ氏は、タワーによって「チョープーの波が変化し、最悪の場合、数年のうちに波を消してしまうかもしれない」と述べている。タワーのような物体を水中に加えることは、水の流れを変え、波のパターンを乱す可能性がある。 これは単にサンゴを傷つけなければいいという問題ではないと、ドゥアルテ氏は言う。国際オリンピック委員会は「スポーツ・フォー・ネイチャー」という枠組みに調印している。すなわち、彼らはオリンピックの前よりも、サンゴ礁をよりいっそう健康な状態にするよう努めなければならない。 「サンゴ礁のような極めて脆弱な生態系を傷つけかねないインフラを設計するというのは、この誓約と矛盾しています」と氏は言う。 2023年12月、国際サーフィン連盟(ISA)は、「新しいアルミ製の審判用タワーの建設を支持しない」と表明した。
抗議で何かが変わったのか
オリンピックの大会組織委員会は、元のタワーは基礎が劣化しているため、改築は危険だと主張した。 彼らはまた、新しく木製のタワーを建設するという提案も、一から設計し直す時間がないという理由で却下した。 ISAは代替案として、地上のタワーの建設、長距離レンズのカメラの使用、審判員と技術スタッフを船に配置することなどを提案した。 これらの案は一切採用されなかった。岸からでは十分な視界が得られず、船から撮影したとしても「競技を適切に観察することは不可能」だというのが、オリンピック主催者の主張であった。 その代わりに、主催者は計画を変更して、「より小規模な新しい審判用タワー」を、サンゴの少ないエリアに建設することを決めた。しかし、2023年12月に建設用のバージ船(はしけ)がサンゴを傷つけ、このプロジェクトはさらなる批判を浴びることになった。 規模を縮小したタワーの影響を判断するには適切な影響調査が必要となるが、「サンゴへの損傷を避ける行動こそが、とるべき道です」とドゥアルテ氏は述べている。