【公演レポート】葛藤を抱えて生きる人に寄り添う新作ミュージカル「ミセン」大阪で開幕
前田公輝らが出演する新作ミュージカル「ミセン」が明日1月10日に大阪・新歌舞伎座で開幕。それに先駆け、本日9日に記者会見とゲネプロが同劇場にて行われた。 【画像】ミュージカル「ミセン」会見の様子。(他48件) 「ミセン」は、ユン・テホ原作による韓国のWebtoon発のマンガ「未生(ミセン)」をミュージカル化したもの。囲碁用語で、“死に石に見えてもまだ完全な死に石ではなく、どちらにも転ぶことができる可能性を秘めた石”を意味する「ミセン」をタイトルに掲げた本作は、韓国でテレビドラマ化された際に社会現象を巻き起こし、2016年には日本でもリメイクドラマが放送された。劇中では、とある大手貿易会社のオフィスを舞台に、インターンとして働くことになった主人公、チャン・グレの物語が展開する。 会見ではまず、脚本・歌詞を担当したパク・へリムがあいさつ。「この作品は会社の中にある葛藤を描いていますが、その中にある絆や温かさを描きたいと思いました。稽古を通じて皆さんの絆が深くなっていったのを感じ、この作品の芯にあるものがよりよく立ち現れるのではないかと思います」と笑顔を見せた。 音楽を担当したチェ・ジョンユンは「私はこの作品に、必死さと温かさが描かれていると感じたので、その明るさを音楽でも表現しようと思いました。韓国で作曲してすぐ日本に送ったのでちょっと心配はあったのですが(笑)、日本の音楽監督はじめスタッフの皆さんが素晴らしくしてくださったので期待が高まっています」と続く。 その後、キャストが意気込みを述べた。居酒屋店長ほかを演じる東山光明は「私の父もオ・サンシク課長のような会社員人生を歩み、今は自分で事業を興しています。そんな父からどんな感想がもらえるのか楽しみです」と話す。キム・ドンシク課長代理役のあべこうじは「初ミュージカルです、どのようなことになるのかむちゃくちゃ楽しみです。観に来てくれなきゃ、観に来てくれないんだなってなりますよー!」と話して共演者たちを笑わせた。 パク・ジョンシク課長役の中井智彦は「ルピナさんの演出によって、人は一度失敗してもそれで終わりではなく再生できるんだ、ということを本作から感じ取りました」と真摯に語る。チェ・ヨンフ専務役の石川禅は「主人公のチャン・グレが内向的な人物で、そのような主人公を際立たせるには周囲の登場人物の心のひだを、丁寧に描くことが重要だと思っています」と役への思いを語り、さらに「この舞台は、映像美術が素晴らしいんです! 稽古場で感じていたよりもはるかに臨場感があります」と見どころを語った。 エリートのインターン、チャン・ベッキ役を演じる糸川耀士郎は「チャン・ベッキを完璧に演じる、それだけです!」と役に徹してあいさつ。もう少しコメントを、と求められると糸川は照れながら「僕は稽古場でみんなの目を盗んで、何度涙を流したか、というくらい胸が熱くなりました」と作品への思いを語った。同じくインターンの1人、ハン・ソギュル役の内海啓貴は「カンパニーのみんながとても仲が良くて、この仲の良さを芝居にも生かせるようにしたいです。見どころはカンパニーの仲の良さと温かさです。ワンセン!」とポーズ。すると前田が「ワンセン(完生)は、“完全に生かされた石”という意味です!」とすかさず補足し、息ぴったりな様子を見せた。 アン・ヨンイ役の清水くるみは「テレビドラマ版を見ていたのでミュージカル化が想像ができなかったのですが、以前からファンだったチェ・ジョンユンさんの音楽、へリムさんの脚本、ルピナさんの演出が本当に素晴らしく、本番では映像も加わって非常に立体的な作品になりました。ミュージカルにすべき作品だったんだ!と実感しています」と作品の魅力を強調した。ソン・ジヨン次長とグレの母役の2役を演じるのは安蘭けい。安蘭は「この作品の設定が、今より少し前ということもあり、男尊女卑が今より激しいと感じるかもしれません。ただ、女性として生きていく難しさについては、女性のお客さまに共感していいただけるのでは」と話した。 オ・サンシク課長役の橋本じゅんはテレビドラマ版が非常に面白かったと話し、「それだけに、くるみちゃんと同じく『この作品をミュージカルにするなんて、どうするんだろう?』と最初はまったく想像がつきませんでした。でも、人と作品に寄り添うルピナさんというとても優れた演出家の方と出会うことができ、私にとっては舞台生活40周年、5年ぶりの舞台ですが、まっさらな気持ちになって作品に向き合うことができました。が! 韓国と日本の合作であるこの面白い作品、3都市でたった18回の上演です。ぜひ観逃さないでいただきたい!」と力を込めて語った。 チャン・グレ役の前田は「2カ月間にわたり稽古をさせていただき、チャン・グレという役を通してこの作品とカンパニーと向き合ってきて、この作品に出会えて本当に幸せだと感じています。チャン・グレが何のスキルもなく商社に入り、葛藤しながら守るべきものを大切に、絆を作っていく。この作品を観終わった後も、曲の余韻と共に作品に対する思いを持ち帰っていただけたら」と話した。 最後に演出のルピナがあいさつ。ルピナは「今回表現してみたかったのは、チャン・グレが世の中を囲碁というフィルターを通して見ていること。なのでステージの一番高いところにカメラを置いていて、お客様は碁盤を上から眺めるようにステージを見ることができます。そのような私の頭の中のイメージを、映像デザイナー、照明デザイナー、美術デザイナーなどのスタッフさんがより美しく表現してくださいました。そしてそキャストの動きをより華やかに大きく見せてくれるKAORIaliveさんのダンスは圧巻ですので、ぜひ観に来ていただきたいです」と自信を見せる。そして「私たちカンパニーは、この作品を準備している今はまだミセンですが、お客様が客席を埋めてくださって初めてワンセンになれます!」と笑顔を見せた。 会見後には、ゲネプロが行われた。碁石を打つ音で始まる本作では、囲碁のプロ棋士採用試験に不合格となったチャン・グレが、後援者の紹介で大手貿易商社ワン・インターナショナルにインターンとして入社するシーンからスタートする。学歴も特技もなくコピーすら取れないチャン・グレは、会社の中で浮いた存在だが、配属された営業3課でオ・サンシク課長らと出会い、またインターンの仲間たちとの関係を築いていく中で、自分自身とも向き合うようになり……。 なんでも囲碁の頭で捉えてしまうチャン・グレの目線は、ステージを上部から映し出した映像によって表現される。また、冒頭はチャン・グレの前にただ大きく立ちはだかるモノクロの存在だった会社が、人と人が集う場所として息づき始めていく様を、KAORIalive振付の生命力あふれるダンスと、チェ・ジョンユンのドラマチックな音楽が鮮やかに彩った。 さらに本作では、仕事の中で感じるさまざまな苦悩や諍い、仕事を通じて得られる充実感・達成感、仕事を離れたとき知る家族の温かさ、挫折からの再生など、誰もが人生の中で感じたことがある感情が、細やかに描かれる。しかし単なるサクセスストーリーで終わらないところにリアルさと爽快感が感じられた。 大阪公演は1月14日まで。本公演はその後、2月1・2日に愛知・愛知県芸術劇場 大ホール、6日から11日まで東京・めぐろパーシモンホール 大ホールで行われる。 ■ 新作ミュージカル「ミセン」 2025年1月10日(金)~14日(火) 大阪府 新歌舞伎座 2025年2月1日(土)・2日(日) 愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール 2025年2月6日(木)~2025年2月11日(火・祝) 東京都 めぐろパーシモンホール 大ホール □ スタッフ 原作著者:ユン・テホ 著作権者:SUPERCOMIX STUDIO 脚本・歌詞:パク・へリム 音楽:チェ・ジョンユン 翻訳・訳詞:高橋亜子 演出:オ・ルピナ 振付・ステージング:KAORIalive □ 出演 チャン・グレ:前田公輝 オ・サンシク課長:橋本じゅん アン・ヨンイ:清水くるみ ハン・ソギュル:内海啓貴 チャン・ベッキ:糸川耀士郎 パク・ジョンシク課長:中井智彦 キム・ドンシク課長代理:あべこうじ 居酒屋店長 / パク・クォンイル / 露店商:東山光明 チェ・ヨンフ専務:石川禅 ソン・ジヨン次長 / グレの母:安蘭けい (以下、五十音順)伊藤かの子 / 岡田治己 / 加賀谷真聡 / 加藤さや香 / 工藤彩 / 熊澤沙穂 / 田村雄一 / 俵和也 / 照井裕隆 / 永松樹 / 早川一矢 / MAOTO スウィング:加藤文華 / りんたろう ※1月10日はプレビュー公演。