電車に乗れない、外食できない……。腹痛と下痢をくり返す「過敏性腸症候群(IBS)」を克服するヒント
下痢や便秘をきっかけに、腹痛がくり返し起こる
IBSを規定する症状は「腹痛」です。腹痛は下痢や便秘がきっかけとなって起こります。腹痛はくり返すうえ、便秘や下痢を伴うので、日常生活に支障をきたします。不登校、ひきこもり、失職などにつながることもあります。 ところが周囲からは「命にかかわることはないでしょう」「気のせいではないのか」などと、理解を得にくい病気でもあります。病院を受診しても、異常がみつからず、ストレスのせいだと言われることが多いです。 【排便に関する症状】 排便に関する症状とは、下痢と便秘のこと。腹痛は下痢と便秘とともに起こります。 ●便秘 「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義され、症状は (1)便回数 週3回未満 (2)硬便 (3)努責(いきむこと) (4)残便感 (5)直腸肛門の閉塞感 (6)用手的介助(お尻を押すなどしないと出ない)。 これらのうち2項目以上を満たすもの。 ↓ 回数が少ないだけであれば週1、2回の排便でも便秘ではなく、毎日出ていても出にくい症状が多ければ便秘となる。 ●下痢 下痢は医学的には定義されていない。一日に3~5回排便するなど排便回数が多いだけでは下痢とはいえない。 ↓ 便の形状が重要。大腸に留まるうちに便が固まってくるので、便が大腸の中にいる時間が短いと、水分だらけの水様便や泥状便となる。 こうした大腸が動いて起きる下痢や便秘が、腹痛を起こす「きっかけ」になります。ちなみに、腹痛がない便秘は「機能性便秘」、腹痛がない下痢は「機能性下痢」という別の病気です。
おなかの張りやげっぷ、おならを合併することが多い
IBSの症状に、おなかの張り感やげっぷ、おならが挙げられることがあります。じつはこれらの症状はIBSではなく「機能性腹部膨満」という病名になります。ただし、IBSに、これらの症状を合併することは、とても多いです。おなかの張りの原因は腹部エックス線でみるとガスが実際にあることが多いのですが、まったくないケースも少なくありません。 【ガスが原因となるもの】 ●呑気症(どんきしょう) だれでも唾液を飲む際に空気も一緒に呑み込んでいます。ところが呑気症の人は、ストレスで唾液を飲む回数が著しく増えることで、おなかの中のガスが増えます。呑気症はストレス反応なので食事制限では治らず、悩めば悩むほど症状は悪化してしまうことに。平日の症状で昼から夕方にかけて悪化する特徴があります。また、食事を早食いすることも、空気を呑み込む量を増やしてしまいます。 ●異常発酵 脂質やFODMAP(フォドマップ=小麦や乳糖など発酵性糖質)等の消化しにくい食材でガスが発生し、症状が悪化します。便秘で起きることもあります。異常発酵は、FODMAP制限食や脂質制限食など食事の注意で改善します。便秘を伴うケースでは、便秘が治るだけで異常発酵が改善することもあります。 【ガスが原因ではないもの】 下記のケースでは、両者とも仰向けになるとおなかが引っ込むのが特徴。姿勢改善や、腹筋を鍛えることが治療になります。これらのほか、消化器の病気が原因となっていることもあります。おなかの張り感が強い場合は、医師に相談しましょう。 ●腹筋の問題 普段私たちは腹筋を緊張させています。だれでもおなかの力を抜くと重力で内臓が垂れるので、おなかが出っ張ります。腹筋を緊張させない状態を続けていると、腹筋が弱くなり内臓を支えられなくなって、おなかの張りを感じます。 ●姿勢の問題 おなかの中でいちばん大きな臓器は肝臓で、普段は肋骨の中にかくまわれています。その肝臓が猫背などの姿勢悪化で骨盤の中まで落ち込んでしまうため、おなかが張っているケースもあります。 〈便秘や下痢はどうして起こる? 過敏性腸症候群(IBS)を知る前におさえておきたい腸のしくみ〉へ続く
水上 健(国立病院機構久里浜医療センター内視鏡部長・慶應義塾大学客員講師(IBS便秘外来))